つるちゃんからの手紙4月号(令和4年4月号)
 

 週刊誌の記事で、AIの進歩によって、給料が少なくなる職業という記事がありました。その一位が歯科医師でした。ご丁寧に給料がどれくらい下がるか金額まで書いてありました。さらに、「歯科医師という職業事態がAIによって淘汰される現実味を帯びてきました」とありましたが、私たちは、骨より硬い組織(歯)から、皮膚より軟らかい組織(歯肉)まですべてにおいての治療範囲を網羅しないといけないといけません。それはとても繊細な手仕事なので、歯科医療技術においては人の手が必要になってくると私は思っています。

 だからと言って、AIやデジタル化を否定するわけではありません。もちろん便利になることも多いと思うのです。例えば私が年老いて、運転免許を返納しようと思っても、その時はもうAIが自動運転を行って、安全に目的地まで連れていってくれるでしょう。これはとても素晴らしいことです。

 今当院で行っているCEREC治療はAIまでとはいかなくても最先端のデジタル技術によって歯の形態を忠実に再現して修復していますし、インプラント治療でも手術時に血管や神経を絶対に損傷しないガイデッドサージェリーという技術を活用しています。おかげで、以前と比較すると歯科治療は安全且つ高度なものとなってきました。

 AIとちがって、人がかかわることの大きなメリットは「思いやり」や「やさしさ」、「気づかい」ができることです。それは医療にとって最も大事なことだと思います。

 

 話は変わりますが、あるフランス料理レストランのシェフの話です。そのシェフは必ず、お見えになった方の写真を撮らせていただき、厨房にそれを貼って料理を作るそうです。来てもらった2人が、「今日は最高の記念日だった」と幸せな気持ちになってもらえるように心を込めるのだそうです。最後にデザートをシェフが持っていったとき「お口に合いましたか」と質問すると、ほとんどの人は、「こんなに美味しい物を食べたことがない」とおっしゃるそうです。このレストランはずっと先まで予約が埋まっているということです。

 また、陶芸家の北川八郎先生も「この器を手にする人に、神の恵みがありますように、病の人は病が軽くなりますように、怒りの人は怒りの森から抜け出られますように」と祈りながら陶器を作っておられるそうです。視力をほとんど失った人が、その陶器を手にした瞬間、「この器はなんて優しいのだろう」と涙を流したそうです。

 私も手術中、インプラント体を骨の中に埋入する直前にCGF(フィブリンゲルという血液凝固に関わるタンパク質)を塗布するのですが、その時「どうか、骨に問題なく付いてください、そして、この患者さんが生涯しっかりと噛むことができて、豊かな気持ちで人生を送れますように」と願いを込めます。

 

 あらゆる仕事というのは、ただ目的を達成すればよいというのではなく、あと一歩だけ踏み込んでそこに、「思い」や「心」を込めるということがとても大事だと思っています。なんと言っていいのかわかりませんが、「神聖な気持ち」とでも言ったらいいのでしょうか。そういうものを持つことで、目に見えない不思議な力が発揮されるのではないかと思います。