つるちゃんからの手紙 11月号(令和元年11月号)
 

つるちゃんからの手紙 令和元年11月号

 西日本を中心にWTSwin-winの楽しい歯科医院を普及する協会)というスタディーグループがある。

 会員となっている歯科医院は30医院を超え、鶴田歯科医院もこのWTSに入会し、今年で12年を迎える。

 ところで、あなたはwin-winとはどんな意味かご存知だろうか。

 これは近江商人の「三方良し」をモデルとしている。

 「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」。

 この言葉は、現在の滋賀県にあたる近江に本店を置き、江戸時代から明治時代にわたって日本各地で活躍していた近江商人が大切にしていた考え方。

 売り手と買い手がともに満足し、さらに社会貢献もできるのが良い商売の在り方としていた。

 彼らは利益を求めるのではなく、ただ人の為になることを行ってきた。

 だからそこに信頼がうまれ、結果大きな利益をもたらした。

 驚くことに、その利益を、自分たちで分けるのではなく、今度は学校の建設や橋の建設に無償で使ったのである。

 一年に一度、歯科医院のスタッフが発表する機会を設けている。

 それが、「WTSプレゼンテーション」。院長先生ではなく、歯科医院の勤務医、歯科衛生士、歯科技工士、受付、事務スタッフなどが20分の時間の中で発表を行う。

 過去12回、私の医院は継続して参加し、そして発表している。

 歯科医院は学術系のスタディグループは多く存在する。

 しかし、私の知る限り、歯科医院のスタッフだけの発表会が、200人以上の大規模のものは日本ではこの2つしか存在しない。

 西日本のWTSと東日本のN1会だ。WTSN1会は友好団体である。

 このWTSのプレゼンテーションで最も会場のアンケートの結果が良かった医院は代表として東京で行われるN1会という関東のスタディグループの発表会で講演ができるのである。

 だから、私はこの発表会は「歯科医院の甲子園」だと思っている。

 1020日に行われた鶴田歯科医院からは勤務医の伊藤高紘先生が発表した。

 伊藤先生は宮城県仙台市出身。

 高校卒業後、国立大学の理学部にストレート合格したが、自分の志す学問分野が教授の退官により教室の方針がガラリと変わってしまった。

 どうしてもやりたかった研究ができなくなったことに絶望感を頂いたという。

 悩んだ末、退学という道を選んだ。

 初めての挫折感を味わい、地元の仙台市に戻ってコンビニや牛丼屋でアルバイトをしていた。

 2011年年311日、東日本大震災。

 仙台空港やその周辺の名取市は津波の被害で多くの人が犠牲になった。

 伊藤先生はちょうどその日に仙台空港に家族の見送りに行っていたのだが、数時間の違いで生死を分けた。

 その数日後、避難所で支給された救援物資を入れ歯が無く食べることが出来ない人を、県外から多くの歯科医師がボランティアで義歯を作っていることを知った。

 その瞬間、東北が大変なことになっているのに自分が何もできない無力感を感じた。

 自分も人を救えるような仕事に就きたい、そう一念発起し受験勉強をはじめた。

 そしてその翌年には長崎大学歯学部に合格。

 国家試験にパスし、卒後研修を経て、鶴田歯科医院に就職するまでの思いをこのプレゼンテーションとして発表したのだ。

 3か月前から準備を始め、何度も予演会を行った。

 スタッフは伊藤先生が良い発表を行えるようにと、ムービーを作ってくれたスタッフがいる、座長との打ち合わせのために福岡まで時間を作って連れて行ってくれる人がいる。

 何度も意見をいい、発表の流れが会場に伝わりやすくするために何度も何度も繰り返しスライドをチェックする人がいる。

 医院が一丸となって伊藤先生の発表の成功のために知恵を絞りだす。

 発表は鳥栖市で開催される。

 ほぼ全員が応援にいく。

 みんなで発表を見守る。

 もちろん発表は大成功であった。

 この発表会で最も大事なのはチームが一つになることである。

 私はこの一体感が好きでこの発表会は全員で参加している。

 もちろん、他の参加医院の取り組みなどを知ることができるし、自分たちだけでなく、患者様のために頑張っている医院があること。

 せっかく発表するのだから、多くの人が感動してもらえるようなものにしようね。

 発表する人だけではなく、医院全体として取り組もう、そして歯科界が良くなれば社会も良くなると信じている。

 Win-Winとは、「患者様」「医院で働く人」「世の中」の3つの幸せを指す。