つるちゃんからの手紙3月号(令和6年3月号)
 

つるちゃんからの手紙 令和6年3月号

私が大学病院の歯科口腔外科に勤務していたころの話です。ある日突然、医局長に呼び出されました。同門の○○先生がご病気になられたので、鶴田君が行って手伝ってもらえないだろうか。大学から高速道路を飛ばしても2時間はかかるところでした。その歯科医院は予約制ではありませんでした。たくさんの患者さんが朝から列を作って待っていました。6台の診療台があって朝9時になると、先に来た6人の患者さんが通されて順番に左側の診療チェアから私が治療を行っていきます。その6人の治療が終わったら、また6人が通され私はまた順番に治療を行います。何度か繰り返すと、正午を知らせる町のチャイムがなります。すると、突然昼休みになります。患者さんもお昼を食べに自宅に帰ります。そして午後の診療が始まって、夕方になると「夕焼け小焼け」の音楽が町のスピーカーから流れてくると。今日はここまで、という具合に診療は終わるのです。

主訴も「痛い」「腫れた」「外れた」「入れ歯がこわれた」などといったものがほとんどでした。その町には歯科医院がとても少なかったというこということもありましたが、その歯科医院での仕事は、その地域の人々には大きく貢献していたと思います。一日に何度も「ありがとうございます」と患者さんに言われましたので、間違いはないと思います。

あれから20年以上が経ちました。現在はほとんどの歯科医院が予約制を取り入れています。では、なぜ予約制にしているのか。その理由をお話しします。歯科疾患と言えば、虫歯と歯周病です。この疾患を予防する方法がわかってきたのです。これは医学の発展によるものです。以前は「痛くなってから」「不具合で出てから」歯医者に行っていましたが、「傷む前」「腫れる前」に歯科医院を訪れ、病気にならないよう予防する時代になりました。また、治療がすべて終わっても、繰り返さないよう歯科衛生士さんからお口の環境を整えるために、歯磨き指導や、生活習慣を含めてアドバイスをするようになりました。これを定期的管理、メンテナンスといいます。その間隔は人それぞれリスクによって変わってきます。歯周ポケットが深い方、虫歯になりやすい方、糖尿病に罹患している人や妊婦さんとなると歯周炎のリスクが高くなるので、たとえ症状が無くても月1回メンテナンスを行うことをお薦めする人もいます。

予約制でない、ちょっと前の時代は行きたいときに歯科医院に行くわけですが、待ち時間がとても長かったのです。抜歯後の消毒は5分とかからないことがありますが、そのために1時間くらいは待時間が発生していました。しかし予約制であれば、待ち時間は圧倒的に少なくなります。なにより、その患者さんの治療計画を立てて、その内容に応じて時間を確保できます。特に治療に必要な器具や材料の準備が前もってできますので、焦ることなく治療に集中できるのです。実際に確保した時間で治療が終わらない場合は次のお待たせしている患者さんに申しわけない気持ちで一杯になることもあります。子育て中のお母さんや会社勤めの方や農家の方、忙しい毎日の中に時間を作って歯科医院に来ていただいている。これだけでも私は感謝しているのです。歯科医院の予約というのは人生100年を健康に過ごすためのシステムなのです。予約診療にご理解いただきいつもありがとうございます。