つるちゃんからの手紙3月号(令和3年3月号)
 

3月。この時期は、転勤や、卒業、入学で忙しい時期となります。

私の医院も、新人を迎える準備をしているところです。今年入社する歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士がこの医院に入ってきます。みんな愛野町に住んでくれるので、この町に少しでも活気を与えてくれたらいいなあと思っています。

どんな仕事もそうでしょうが、新人にユニフォームを着せたら、すぐに手が動くかというとそうではありません。歯科の仕事も同じで知識と経験、そして技術が必要です。それはすぐに身につくものではありません。やはり、一定の期間、それ相応の鍛錬が必要になります。私も長年、若い人の教育と育成に携わってきました。そこで学んだことがあります。それは上司や先輩に「なんでも教えてほしい」と思っている人は、たいして伸びないということです。一見、積極的な姿勢に見えますが、それは大きな間違いだったのです。

以前は若い人たちが覚えやすいようにと治療の流れをすべてマニュアル化し、完璧なものを作り上げました。これで大丈夫、そう思いました。しかし、思ったより良い結果は出ませんでした。機転が利く人はすぐにこのマニュアルを暗記し、練習をして仕事ができるようになるのですが「何か」が足りないのです。手順や方法に間違いはないのですが、あと一歩のツメが足りない。私は何がよくなかったのかを、考えてみました。それはすぐに答えがでました。足りないものとは、治療に対する「思い」だったのです。医療職である以上は、「本当に良くなってほしい」という思いが芯にないと、ちゃんとキレイに治らないし、うまくいかないのです。だから私はこの「思い」を育むことにしました。

返事・挨拶・礼儀正しく接することがいかに重要なことか、またどんな技術でも鍛錬と忍耐が必要であることや、患者様や先輩や仲間とどう向き合うかといういわゆる「心構え」を教えることにしました。

そこから「何のために」技術を磨くのか。そして自分の本分とは、と人間の基礎をつくることに力を入れました。すると、若い人たちは貪欲に学ぶ姿勢がついてきました。

自分で調べる、考える、上司や先輩のやり方を盗んで勉強する。そんな習慣が付くと、マニュアル教育とは違い、人として、医療人として大きく成長していくものなのです。苦労して、盗んでまでして、やっと手に入れた技術というものは、一生忘れません。それをとても大事にするものなのです。

最初は、思っていたように体が動かず、指先もおぼつかなかった人でも、2年もすると、「あなたがいてくれたから私の歯が悪くならずに済んでいるの」「助かったよ」「ありがとう」と言われるようになるのです。それは大きな手柄です。喜んでもらうことが仕事の原点です。だから、新人諸君には「いつか必ず大きな手柄をたてて、心から美味しいごはんは食べましょうね」と励ますことにしています。

4月から6人の新人がこの医院に就職します。一人一人の人間には多くの可能性があります。責任をもって育ていきます。