つるちゃんからの手紙 1月号(平成31年1月号)
 

私の医院では初診の患者様(成人)には必ずお口の中の写真を撮影することにしています。それを「口腔内写真」といいます。4台の口腔内を撮影するカメラがあり、いつもフル稼働しています。

初診の時には通常、7枚を基準に撮影します。いろいろな角度から、かみ合わせや普段目にする機会のほとんどない奥歯や歯の裏側まで、しっかり撮影するにはそれなりのスキルも必要です。キレイに撮影するには、撮影のトレーニングも必要ですし、写真をプリントする時間と貼る手間、さらに用紙とインク代もかかります。ではなぜ、そこまでして写真を撮影するのでしょうか。

口腔内写真を撮影する目的はいくつかあります。一つは患者様に実際に写真を見ていただくこと。「これって、私の口の中ですか?」と訊かれたりすることもあります。私たちにとっては見慣れた口の中ですが、歯科マニアでない限りはふつう、自分の口の中をじっくりと眺めることなんてないのです。そこにはいろいろな気づきがあるのです。

たとえ「痛み」などの症状はないにしろ、口腔内写真を見ていただくと、「傷み」には気が付いてもらうことができるのです。プラークの付着している状態や、歯肉の腫れ、歯並びや解剖学的特徴、もちろん虫歯の存在や、歯のすり減り、詰め物やかぶせ物の劣化などを見ていただくことで、興味を持っていただくことができます。すると、「もう少しきちんと歯磨きしないとだめだな」、「フロスや歯間ブラシも使ってみようかな」、「歯並びが悪いから、矯正治療も考えてみようかな」などという「気づき」が得られると、患者様は治療に対して意欲的になっていただくことができるのです。実はこれが一番大事なことなのです。さらに、丁寧に説明を行うと、患者様から「どうしたらこの歯は治りますか?」「今度はどうしたらこんなにならないで済みますか?」という質問がでてくることもあります。 これは私にとってとてもうれしい瞬間です。質問していただけると、その人が知りたい情報を適切に応えることができるからです。歯科医師は治療の方法だけではなく、その治療を行う意味と根拠をきちんと説明する義務があります。とても小さな歯一つ一つにおいて、専門的なことをわかりやすく説明することは、地道で根気のいることだと思いますが、一枚の写真の情報が患者様に与える影響は大きいのです。

次の目的は、診断です。治療計画を立てる場合、口腔内写真は必須なのです。特に当院では複数の歯科医師が診療に携わっていますので、必ず「カンファレンス」という症例検討会を開き、医院の方針に基づいた治療計画ができてから、はじめて患者様へ説明を行うことができるのです。情報の共有ということにおいても大きく役に立つことができるのです。最後に、本当の写真を撮影する目的をお話しいたします。「一本の歯は人生の中で5回の治療にしか耐えることはできない」と、ハル・ヒンギスという学者は論文に書いています。私も22年の歯科医師の経験からいくと、極めて信頼性の高い数字だと思います。ですから、ただ単に、部分的に困ったところだけを治すだけではなく、一口腔を一単位とみた視点で、できる限り再治療を減らし、自分の歯を長く使ってもらうことで、患者様の人生を豊かに過ごしてもらうことにつながることになると思うのです。ですから、口腔内写真は治療の一部として捉えていただけたら幸いに思います。

口腔内写真撮影の目的

  1. 診断・治療計画立案
  2. 患者様の理解を深めるコンサルテーションの実施
  3. 経年変化による対応
  4. 治療効果の確認