つるちゃんからの手紙2月号(令和3年2月号)
 

「29歳女性。会社員の場合」

彼女は以前から口の中が気になって仕方がなかったけれど、ずっと我慢していた。奥歯には詰め物がとれて、穴があいているところがある。痛くはないのだが食べ物がつまりやすく気になる。最近、冷たいものを口にすると、ズキッと一瞬痛みを感じる。そのたびに不安になる。最近は、朝起きたら口の中がねっとりしていて気持ちが悪い。歯磨きすると必ず血が出るので、このことも気がかりである。痛みが強くなってからでは取り返しのつかないことになるのではと思っている。しかし、以前から歯医者にかかることは、大の苦手であり、忙しいことを理由に、なかなか歯医者へ足が向かなかったのである。ある日、同僚から、「あそこは違うから行ってごらん」と、すすめられた。

 

歯医者なんてどこも一緒。彼女は小さい時に行った歯科医院ではあまりいい思いをしたことがなく、どこがどう違うか、わからなかったが、同僚の強い奨めをきっかけに思い切って行ってみることにした。恐る恐る、電話をかけると、すぐに電話を取ってくれ、明るい声で、気持ちよく応対してくれた。その予約の日、彼女は不安な気持ちでその医院に到着した。そして驚いた。受付のスタッフが「こんにちは。○○様ですね、お待ちしておりました。」と彼女の名前を呼び、元気のよい明るい声で挨拶してくれる。歯科医院の受付と思えないくらい丁寧なあいさつに、まず驚いた。待合室は広く開放的で、明るく、掛け心地がよいソファーが置いてある。歯科医院独特のあの消毒薬のにおいがまったくしない。

しばらく待っていると名前を呼ばれた。一瞬「ドキッ」とするも、すぐに診療室に行くわけではなさそうだ。治療前の問診は、コンサルテーションルームで、さっきの受付のスタッフが親身になって問診をとってくれた。本当にここは歯科医院なのだろうか。彼女はちょっと驚いていた。前に行った歯科医院とは全く違う雰囲気だったからだ。自分が口の中のことで悩んでいたことや、いままでの歯科治療の経験や、仕事の勤務パターンなども質問された。

治療室の扉を開けると、それぞれの治療台から明るい声でスタッフの女性の声がはじめて出会うはずの彼女に明るい声で「こんにちは」と元気に明るい声で、挨拶してくれる。

ちゃんと顔をあげて見せる笑顔は、気持ちがいい。いや、気持ちがいいというレベルではない。作った笑顔ではなく、本当に会えたことを喜んでいるような、そんな笑顔なのだ。

口の中を今日あったばかりの人に見せるのはやっぱり勇気がいる。でもこれだけ明るく接してもらえることで氷のように固まった不安が一気に消えていった。

 

いよいよ診察が始まり、チェアーが起こされ、うがいをすると「これまで大変だったのですね。つらかったのですね」と歯科医が優しい言葉をかけてくれた。この言葉を聞いたとたん、不覚にも涙が一筋、頬を伝ってしまった。うがいをするフリをして、なんとかごまかした。その後は、レントゲンをとったり、口の中の写真をとったり、歯グキの検査というものを行った。検査中も、彼女がつらくないか何度も気遣いの言葉をかけてくれる。その後は、検査結果と照らし合わせて、歯科医がコンサルテーションルームで彼女に今の状態を教えてくれた。予想どおり、虫歯が他にもあり、歯周病もある程度進んでいるとのこと。

「今日は応急処置をしておきましたが、次来院された時に、より詳しく治療方針を説明しますね。また、急に痛んだ場合はすぐに連絡してください。遠慮はいりません。」と言ってくれた。「今日ここに来て本当によかった」と彼女は心の底からそう思った。

帰りにスリッパを脱いで、使用済みのケースに入れ、自分の靴を探したら、いつの間にか履きやすいように、きれいに並べ直してあった。彼女は歯科医院に対するイメージがこれまでとはすっかり変わっていた。あんまりいい歯科医院だったので、すぐに紹介してくれた同僚に電話をしてお礼を言った。


 

これは、開業した時に書いた「私の目指す理想の歯科医院」。この文を書いてから、もう18年が経つ。もう18年か。そんなに経つか・・・・開業当初は4人でスタートしたが、今はたくさんのスタッフと一緒に仕事をしている。当時1歳だった長男も大学生。歯科治療を受けていた小児が3月には歯科衛生士専門学校の卒業が決まりここに就職が決まった。月日の流れは本当に速い。しかし、感慨に更けている場合ではない。中小企業の多くは創業20年で「成人」を迎えるという。今や誰もが知っている世界の企業のすべてが20年を節目に躍進を遂げている。私たちも歯科医院とは言え、一つの企業体である。先が見えない時代だからこそ、明確な使命を持ち本格的な成長を実現しなければならない。これからの私の課題は、歯科界に決定的な影響力が持てるくらいの歯科医院を本気で創ってみたいと思っている。私の挑戦はまだ始まったばかりなのだ。

2021年2月1日(18回目の開業記念日 自宅の書斎にて)