つるちゃんからの手紙9月号(令和3年9月号)
若い頃から、今に至るまでずっと習慣になっていることがある。それはセミナー。私はこれが大好きだ。
若いころは給料のほとんどをセミナーに費やした。休みの日はなにかしら歯科医師対象の学会やセミナーや研修会が全国各地で催される。自分が行きたい分野をかたっぱしから受講していった。セミナーで得たい内容があると、それを身に着ける。最初は慣れないで混乱するが、繰り返すうちにだんだんとうまくなっていく。そして、考えるより先に指先が動くようになる。習熟すると自信となり、ますます仕事が好きになる。そのセミナーで身に着けたスキルを患者さんに行うとたいていは喜んでいただける。すると、また喜んでもらいたくてセミナーに行き、勉強する。そうしてセミナーは中毒となる。
そのセミナーというものは、無料のものから100万円を超えるものまである。若い頃は自分に必要と思うものは、有り金を全部はたいても参加した。今考えたらかなり無謀だったなあと思う。しかし、多くのセミナーを受講することで気が付いたことがある。それはモノには値段にたいする価値があるということだ。
お手軽に参加できる無料のセミナーはメーカーなどが主催しているものが多く、商品の紹介や売り込みのことが多い。それが、自分のニーズとずれていると、貴重な休日を無駄にする。反対にセミナーの受講料が上がってくるにつれ、学ぶことも金額に比例して増えてくる。大学教育では決して習う事が出来なかった治療技術や、神技とも思える高度なテクニックを入念に教えてもらえる。たいていそういったものは、実習がセットでついているので、技術を完璧に習得するまでインストラクターにクタクタになるまでしごかれる。それもワンデイではなく、週末土日を利用しての半年から一年間のコースである場合が多い。さらに都市部で開催されるので、ここから行くと旅費と宿泊費、移動の労力と時間が別途かかる。
さらに日本を飛び出して、海外にいくと日本を代表する高名な先生や、歯科界のスーパースターが同じ受講生だったりする。パーティーだけではなく、一緒に行動を共にすることだってある。そこにはセミナー以外にも多くの学びがある。そこで気づかされた良い点をどんどん自分の医院に取り入れる。その結果としてさらに進化させていく。
そして、少しでも時間と余裕が出来たら、また学ぶ。思えばずっとそうしてきたが、昨年からは新型コロナ感染症のおかげで途端に県外に行くことができなくなったが、それでもWebで学会やセミナーに参加している。
歯医者になって25年間、休まず様々な歯科治療をやってきた。しかし、どんなに歯科医療技術を身につけても、虫歯や歯周病を完全には治すことはできなかった。「え、歯を治していないの?」って驚いた方もいるかもしれないが、一度虫歯や歯周病になると、機能を取り戻すことはできるが、自分の本来持つ歯(天然歯)のレベルには戻らない、という意味だ。修復材料によっては、しばらくすると、再治療を行い、それを繰り返すことで大事な歯を失っていく。私は、それがとても悔しかった。
だからもう治療を繰り返すことよりも、最初から虫歯・歯周病や歯列不正にならないような口腔にできないかを本気で考えるようになった。歯を抜かない、削らない、歯茎を切らないで、口の健康を保ち、生涯過ごすことができたら、どんなに幸せだろう。それを実現できないだろうかと真剣に思うようになった。
行きついた結果、「予防歯科」に力を注ぐことだった。いい「予防歯科」には人の力がいる。機械化もできなければ、AIにやらせるなんて無理。チームでやらなきゃ実現できない。
幸いにも、この愛野町に移り住んで、私の医院に就職してくれる歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士が増えてきた。気が付けば、10年前に建てたこの医院も手狭になってきた。そして、人財が揃った今こそ、前述した私の夢(予防歯科)を実現させる時期ではないかと考えるようになった。
「よし、増築するぞ!」と、昨年11月に私は決心した。より通いやすい予防歯科に特化した歯科医院を創ろう。仲間一人ひとりが最高の力を発揮できるステージを創ろう。自分の今できる最大のことをやろう。そして、出来上がったのが今の鶴田歯科医院である。
令和3年8月31日。増築したメンテナンス専用フロアの引き渡しが終わった。ここには4つの治療台と、治療用マイクロスコープ、感染防止に最大限の効果が発揮する口腔外バキュームと換気が十分にできる広い空間。そしてカルテ保管庫。二階には在庫棚と小さな子供を連れたまま受講できる歯の健康教室が開催できるセミナールームと勉強会ができる会議室を設けた。さらに患者さんにより丁寧な説明を行う目的で、コンサルテーションルームを2つ。さらに消毒・滅菌コーナーの大幅なリニューアルを行った。スタッフ休憩室などを新たに完備することができた。
ここまでの道のりは大変険しいものであったが、地域の人々の健康に少しでも貢献できれば、こんなにうれしいことはない。私は今年で52歳になる。たとえ65歳まで診療ができたとしても、もはや嫌なことを我慢する時間は残っていないし、これからは、大好きなこの仕事に力を入れることを人生最大の喜びにしたいと思っている。
文責 鶴田博文
追記 この度4か月に及ぶ増築工事期間中は患者様にも大変ご不便をおかけしました。
設計においてはダイヤモンド設計の本多先生に大変お世話になりました。
また、炎天下の中、猛暑の中、休日を返上し、夜遅くまで、たくさんの汗を流して工事をしていただいた株式会社吉次工業 建築主任 野口様をはじめとする関係工事機関の皆様、UKデンタルの山田課長ならびに歯科機器メーカー担当者様には、事故もなくこの建物を築き上げて頂いたこと、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。