つるちゃんからの手紙2月号(令和4年2月号)
 

昨年12月、インプラントメーカーから口演の依頼がきました。私の症例発表と、「抜歯即時埋入インプラント」を始める先生方向けに、私がどんな治療を実践しているのか話をしてほしいとのことでした。このご時世ですのでWEBでの口演です。パソコンに向かって話をするわけですから、聴いている人の表情や雰囲気がつかめません。ですから、今回は入念にスライドをなんども見直し、わかりやすい話を心掛けました。

今日は、私が日々の臨床で行っている「抜歯即時埋入インプラント」の話をします。

通常のインプラント治療というのは、まず歯を抜歯してその部分が治癒するまで待ってそれからインプラント体の埋入手術をします。そうなると、抜歯してから噛めるようになるまで、9か月から12か月を要します。その間、その部位で噛むことはできません。対顎の歯の延出(飛び出ること)や、隣の歯が傾斜してくることだってありますし、患者様にとっては長期間噛めませんので大きなストレスとなることもあります。さらに、抜歯後に失った骨や歯肉の移植を加えるとなると、噛めるようになるまで、少なくとも3~4回の手術が必要になります。しかし、「抜歯即時埋入インプラント」であれば抜歯したその時にインプラント埋入まで完了しますので、手術は2回で低侵襲に行うことが可能です。そして、噛めるまでの期間が最短で3か月と大幅に短縮できるのです。さらに、骨質がよければ、抜歯したその日に歯と本物そっくりの仮歯を入れることもできます。

この方法を用いると、患者の痛みや腫れが少ないこと。抜歯後に吸収してしまう、歯の周囲の骨や、歯肉の退縮を大幅に防ぐことが可能となります。これは、上部構造という噛める歯が入ってからの歯磨きのしやすさが格段に良いので、インプラント周囲炎に罹患する可能性が極めて低くなるのです。つまり予知性が高いインプラント治療となるのです。

実は、この「抜歯即時埋入インプラント」は、まだ歯科業界では一般的ではありません。

理由は、抜歯即時埋入インプラントは、圧倒的に難しいということです。しかし、私にとっては、いくら難しいと言われていても患者側にとってはどう考えてもメリットばかりの素晴らしい治療方法なのです。私は10年以上前に、その「抜歯即時埋入インプラント」を自分のものにする決意をしました。そうなるには、勉強だけではダメです。抜歯したばかりの抜歯窩にインプラントを適正なポジションに埋入するためには膨大な量の模型でのトレーニングが必要になります。インプラントはひとたび埋入し骨と結合してしまったら、ポジションを動かすことができなくなりますので、そこはかなり慎重に行う必要がるのです。

私は2011年にこの方法を確実にするためにFIDIという研修会(全6か月)に参加し技術を身に付けました。このコース以外にも早春塾という全国から凄腕の先生ばかり集まって症例検討を行うコース(6か月)にも5回、出席しました。さらに、それに付随する様々な研修会や学会などにも積極的に出かけました。いずれも東京、大阪や海外で開催されますので、受講料に加え旅費や診療制限をかけることで数千万円の自己投資となりました。

患者様は治療を受ける時は、次のように考えていると思っています。「痛くなく」「腫れないで」「早く噛めるように」「うまい先生に」「クオリティが高い治療を」と。基本は自分の歯を残すこと。しかし、どうしてもその歯が保存できなくなった場合は、「抜歯即時埋入インプラント」を検討します。これこそ、患者目線の優れた治療方法だと私は思っております。最後に、これから「抜歯即時埋入インプラント」を始めようとする若い歯科医師の先生方にこう語りかけました。

私の場合、一生かかっても必ず成し遂げたいと思えるレベルの治療を見せてもらうことからすべてが始まりました。林揚春先生(東京都新宿区開業)の抜歯即時埋入インプラントに出会ったことに機を発しています。低侵襲で安全で、予知性が高く、短期間でインプラント治療を行っておられます。志のある人とない人との差は一つしかありません。林先生のような素晴らしい人に出会った時、「自分も同じ歯科医師だ。負けてなるものか」と発奮できるかどうかです。「あれはねえ、あの先生だからできるんだよ」「EBMが確立できていない」「長期的はどうかわかっていないよね」、そうやって「できない言い訳」をしている間はいつまでたっても本物にはれません。

 人は「志」をひとたびみつけたら、もういても立ってもいられなくなるものです。生涯、一度でいいから素晴らしい歯科医師に出会い、その人のようになるという「志」が生まれると、その「志」のために行動するのです。知識や理論でわが身を飾ってみたところでいつか必ずメッキは剥がれてしまいます。本質というものは「どんな人になるのか」、つまりあなたが「どう生きるか」ということなのです。素晴らしい技術ほど短期間に手に入れるなんてことは不可能です。あなたの志がぶれなければ、なにも恐れることはないのです。今日までの私が行ったインプラント数は1,676本です。これが多いのか少ないのかわかりませんが、数がすべてではありません。一本のインプラント治療にどれだけ心を込めて真摯に取り組むか、それが患者様の信頼に繋がっていくと信じています。

大切なことは本当に良くなってほしいという思いを持ち続けることなのです。

(1月26日MEGA’GEN JAPANオンラインセミナー 4Sコンセプトで変化したインプラント治療Part2より)