つるちゃんからの手紙 6月号(令和元年6月号)
 

「小学校の通信簿」

 先日、実家の納屋の中を掃除していたら自分の小学校・中学校の時の通信簿が出てきた。

 全ての教科の中でダントツにいい評価をもらっていた教科がある。それは図画工作と技術家庭科だ。これはもう間違いがない。物心ついたときから、紙飛行機、それも二宮康明という人が書いた「紙飛行機集」という本があって、その本の中にある紙飛行機の台紙を切り抜いてそれを貼り合わせると、とてもよく飛ぶ紙飛行機ができるのだ。あまりにもよく飛ぶので、同じ紙飛行機集を何冊も買ってもらって、よく友達に作った紙飛行機をプレゼントしていた。おとなしく引っ込み思案だった私はこれでたくさんの友達ができた。

 それが、成長するとともに、プラモデル、電子工作(アマチュア無線)、自転車、そして大学時代は熱気球、社会人になるとオートバイ、クルマと自分の興味は変わっていくのである。

 もともと私は自分の手でなにかを作り出すことや、「メカ」が好きなのである。つまりよく言う「三度のメシより好きなもの」とはこのこと。歯学部に進学すると講義だけではなく実習(実技)が数多くある。石膏柱を歯の形にする歯型彫刻から、解剖実習、鋳造修復から義歯の排列まで、どれも指先を使うものばかり。おかげで、実習(実技)であまり苦労したことはなかった。

 大学5年生の時に、インプラントの講義を聞いた時は衝撃が走った。

 インプラントはただ単に顎骨にネジを埋め込んで噛めるようにするものだと思っていたが、人の顎骨というのは、抜歯をしてしまうと、廃用性萎縮という現象によって、その骨の形がどんどん変わっていく。

 骨だけではなく歯肉(歯ぐき)やかみ合わせ、隣の歯や対合歯(噛み合う歯)においても歯を抜いたとたん、いろんな悪い影響がでてくる。単純にはいかない。複雑である。また、インプラントは必ず手術が必要である。病気を取り去るという手術はよく聞くが、そもそも無いものを新たに作り出すという手術なんて聞いたことがなかった。手術という行為には必ず侵襲があるというもの、そこさえ乗り切ることができたら、失った歯とほぼ同じ機能を取り戻すことができるのである。こういったことを医学用語で「再建」というが、これほど機能を精密に再建できる組織は人体の中でも稀であると思う。これこそ、自分が生涯をかけて専念する仕事だと確信を得た。

 口腔内は、過酷な条件下にあり、手術をした後、普通に噛めるようになるまでの道のりも険しいが、その後のフォローはもっと大事である。つまり、定期検診こそ、転ばぬ先の杖となる。インプラント治療を始めてから、まだ16年。ようやく、最近はインプラント治療においてもいろいろなところで発表ができるようになってきた。最近は海外のインプラントメーカーが主催するハンズオンセミナーの、アドバイザーも依頼され後進を育てるチャンスも頂いている。自分の小学校の通信簿を読み返してみて思ったことは、人の得意とする本質は変わらないということだ。紙飛行機とインプラントは全く違うけれど、細かいことが得意であるということを活かしてどう人の役に立つかということが、最も大事なことではないだろうか。使命感をもってこれからも仕事に力を入れたいと思った次第である。