つるちゃんからの手紙7月号(令和2年7月号)
 

 今年の4月に4人の新入社員が入ってきました。3か月間は新人教育期間になります。それぞれに指導を行ってくれる人(指導係)がつきます。指導係は私が選んだ人です。ベテランの人もいれば、入社3年目くらいから指導係になってもらう人もいます。入社内定が決まった時点で、その人を決めます。指導係になった人はその頃から準備を始めます。どんなスケジュールで3か月を過ごすのか、どこまで成長してもらうのかを、ベテランのスタッフと一緒に考えて予定表を作成します。

 これは毎年、歯科医療の進歩に合わせて内容を変えてアップデートしていきます。

 新人教育を行うのは、診療時間中です。普通は掃除や、かたづけ、準備など、できることをやってもらったほうの効率が良いのかもしれません。でも、それをやらないで、先輩についての実地研修や、新人セミナーをわざわざ時間をとって行った方が、早く成長できるのです。

 実際に先輩を見て学ぶのはスキルを身に着けるためにはとても重要なことです。それぞれの仕事の「むずかしさ」、「奥深さ」、「面白さ」、を学び、自分だけの力で医院は回っていないことを知ることができるからです。医院には、小児から高齢者、そして、いろいろな考え方や価値観をお持ちの方が来院されます。ですから、コミュニケーション能力や、臨機応変に対応できる力を養うことがいかに大切かということも、先輩の働きをみて実際に体験してもらいます。

 歯科医師、歯科衛生士の場合、よく就職説明会などに行くと、「うちはトレーニングプログラムやマニュアルが完備しています。これをやると、うまく治療ができるようになりますよ」といった声を耳にします。しかし、うちはマニュアルが存在しません。なぜか。それは新入社員に考えて行動するという習慣をつけてほしいからです。もしマニュアルを作ってしまったら、最低限、それしかやらない人になってしまうこともあるからです。いわゆる指示待ち人間のできあがりです。そういった人は、どこかの部署が困っていてもそれは自分の仕事ではないからと、関わろうとしません。助け合おうとしません。「やるべき仕事はちゃんとできている。だからそれ以外はやりたくない」「新しく仕事を覚えたら、仕事が多くなってしまう」などという自己中心主義になってしまう可能性だってあるのです。

 新人教育で最も大事なことは、「先輩みたいになりたい」と思ってもらえることです。

 「先輩のように仕事ができるようになるにはどうしたらいいだろうか?」それを考えてもらうのです。今の時代、なんでもかんでも、型にはめて教育を行った方がラクなのかもしれませんが、人間は多面体です。いろんな場面でいろんな考えをします。私は、育てた新人が立派な人になってくれることを目標においています。仕事のキャリアを積んでほしいとか、治療レベルを高くしてほしいなどということよりも、周りのことに思いやりをもつことができる人になってほしいのです。よく学会やセミナーにスタッフを連れていくのですが、その時に「若いのにしっかりしていますね」と新入社員が褒められます。その時は、とてもうれしいです。なぜかというと、経験が十分でなくても、若くても、よく気が利き、礼儀正しく、元気で活き活きと輝いていれば、ひとりでに育っていってくれます。新しい治療でも、難しい症例でも患者さんのために一生懸命になってくれます。

 なぜなら、そこには治療の成功だけではなく、「思い」が存在するからなのです。この「思い」だけはマニュアルでは伝わらないのです。歯科治療は「手作りの医療」です。技術よりなにより「本当に良くなってほしい」という思いがないと、先へは進めないものなのです。

 私も、新人教育は時間をとって話をします。これまでの鶴田歯科医院の歴史やここまで歩んできた道のり、どんな苦労や喜びがあったのか、治療に対するこだわり、そして、最後に新入社員には、こうなってほしいということや、就職したばかりの純粋な今、心に決めた目標や、心の持ち方、信念を明確にしていってもらうのです。理念が無いところには人は育ちません。7月になると新入社員はいよいよ診療室でデビューを果たします。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。