つるちゃんからの手紙10月号(令和3年10月号)
 

多くの人は就職先を選ぶときには「この仕事に就くと、いくらの給料がもらえるのだろうか」「ここに就職しておけば将来は安心だ」「ここなら、有名なところだから恰好がいい」などと考えるらしいのです。そういう考えも大事なのかもしれません。

しかし、私は若い時「ここではどれくらいの情熱をもって仕事をすることができるのか」、さらに「ここに就職すれば誰と一緒に仕事ができるのか、そこから何を学ぶことができるのだろうか」ということばかり考えていました。その結果、薄給となるわけですが、仕事の内容は毎日がエキサイティングで、「学び」や「気づき」がとても多く、さらに求められるレベルも高く、良質な治療に集中できる環境を与えてもらいました。これは大変ラッキーなことでした。さらに、一緒懸命頑張っていると、先輩が「結婚したばかりで(経済的に)大変だろう」といって、歯科検診のアルバイトや当直を譲ってくれて、それも大きな勉強となりました。助けてもらうと、とてもうれしくて、先輩のために、医院のために「もっと頑張ろう」と思ったものでした。結果それが今の自分の礎と自信につながっていることと感じています。

話は変わりますが私の医院でも、10月になると来年4月入社してくる人たちの選考が行われます。今年は歯科医師が例年より多く応募がありました。面接試験の際、「なぜ当院を志望しましたか?」と質問をします。ほとんどの人が、見学した医院の中で、ここが最も先生やスタッフの雰囲気が良かったというのです。これはとてもうれしく思いました。

私もかつて技術が高いという歯科医院に、たくさん見学にいきました。見学していくうちに、どうも技術だけ持っていても、良くないことに気が付きました。優れた技術を持つ歯科医院であっても、患者様に「上から目線」といいますか、なんとなく冷たいような印象をうけるところもありました。もちろん働く人の間にも、なにかギスギスしたような居心地の悪さを感じたこともあります。

そこで学んだのは、「優秀な技術を持つことも大事だけれど、一人ひとりの患者様の気持ちに寄り添う気持ちをもって歯科医療を行わなければならない」、ということです。

これは当たり前のことだと思っていたのですが、それを100%続けるとなると意外と大変でした。自分はまだまだであることに気が付きました。特に誰もできないような高い技術を学べば学ぶほど、口数が少なく表情は硬くなるものなのです。だから、この程度ではいけない、圧倒的なレベルの技術を身に着けようと思い、私は毎週のように学会やセミナーに行って技術研鑽するわけです。

そこで実力が付くと、精一杯だった気持ちも、余裕を持つことができるようになり、大きな気持ちを持って患者様やスタッフに接することができるので、その結果、医院の雰囲気は良くなるのだと思うのです。ある時、私が、がむしゃらにセミナーを受講している私を見た師匠から見透かされたように言われました。「あのね鶴田君、技術があるやつなんてたくさんいる。だけどそれだけじゃまだ二流。人へのやさしさや思いやりがもてるようになって、はじめて一流と言えるんだよ。」と教えて頂きました。これは本当に心に響きました。私はまだまだ、道半ばですが本物になれるようにこれからも、襟を正して精進していきます。

 

文責 鶴田博文