つるちゃんからの手紙6月号(令和3年6月号)
 

私は開業するまで、2か所の大学病院と分院長、そして、外勤を含めると、いろいろな医療機関で働いた経験があります。大別すると、いい雰囲気と良くない雰囲気の職場がありました。良くないと私が感じた職場の雰囲気はとにかく、暗い。何かわかり切ったような、妙に大人びた人ばかりでした。冷たい感じ。でもよい雰囲気の職場というのはどちらかと言うと子供っぽい、無邪気で明るい人ばかりだったのです。良くない雰囲気にする一つの原因は自分という「人」が出せないからだと私は思いました。ひとたび自分らしさを出したとしたら恥ずかしい、いじめられる。小言を言われる。すると一般的に普通に淡々と仕事を無難にするほうが楽なのです。本来の自分を押し殺すわけですから、我慢をしているのと一緒です。必然的に雰囲気は悪く、暗いものになっていきます。でも、自分らしさを素直に出せる職場だったら、その歯科医院はとても良い雰囲気になると私は思います。たとえ自分をさらけ出しても、その組織の人がどんなことでも受け入れてくれて、認めてくれるのです。その人に変わった嗜好や趣味をもっていても、人とは違ったところがあったとしても、それを周囲が認めると、その人は途端に輝きだします。そうなると、自分の「居場所」を仕事で見つけることができるのです。「居場所」は安心できるところです。だから明るく、楽しく仕事に取り組むことができるのです。実は私自身も、人と変わっているところはたくさんあります。

どちらかというと幼い時から、内向的でした。小学生の時は、紙飛行機やプラモデルばかりつくり、中学生のころは、自転車やバイクのエンジンを分解していました。高校生の頃は、ラジオを作って海外放送を聴いていました。スポーツやゲーム(ファミコン)や、テレビには一切興味がなく、クラスのみんなとは違う遊びばかりしていましたので、気が付いたら一緒に遊ぶ友達がいなくなっていました。だから、いつも一人でした。学校に行くと浮いたような感じがして不安でした。性格は益々暗くなっていきました。でも、私を救ってくれたものが一つだけありました。それは図書館でした。

そこには伝記がありました。私は伝記を貪り読みました。発明王トーマス・エジソンは小学校で、自分でガチョウの卵をふ化させようとしたり、なぜ「燃えるのか」を知りたがり、自宅の納屋を全焼させたり、なんでも知りたがり教師に質問攻めした挙句、「君の頭は腐っている。他の生徒たちの迷惑になる」とわずか3か月で退学させられるのです。ジャン・アンリ・ファーブルだっていつも地面を這っている変な子供でした。彼も14歳で学校を中退し生活そのものを昆虫の行動に合わせていたといいます。それは「奇行」として周囲の人の嘲笑を浴びるのです。しかし、彼は後に「ファーブル昆虫記」を世に出すのです。

アルベルト・アインシュタイン博士は3歳になっても言葉が全く出ず、9歳まで自由に話すことができなかったそうです。学校でも友達と遊ばずに一人で遠くからみているだけ。他の教科は全部ダメだけど、数学だけは、ぶっちぎりのトップ。彼は後に相対性理論を発表し、ノーベル物理学賞を受賞するのです。

私はこの伝記を読んで、とても勇気づけられました。そして安心しました。彼ら偉人たちは、自分よりもはるかに冷たい仕打ちをたくさん受けたにも関わらず、自分の興味や「好き」を大事にして、それを極めたことで、世界を変えていったのです。だから人と違うことをしていても気にする事なんかない。「好きなこと」に「熱中してもいいんだ」と思うと気が楽になりました。図書館に行くようになってから、内向的な性格も少しずつ明るくなって、誰とでも普通に話せるようになっていきました。今でもタミヤのプラモデルを作りますし、ちょっとした車やバイクの整備や改造くらいなら自分でやります。アンテナを自作し、コネクタをハンダ付けして、ヨーロッパの無線局と交信したりしています。

これは全部、中学生の時に覚えた「好きなこと」です。これらの知識は将来役に立たないと思われていましたが、今は十分に役に立っています。「受験に関係ないものはやるな」と親が言わなくて本当によかったと思います。はんだ付けをしたり、穴をあけたり、削ったり、研磨していたことは、全部今行っている歯科治療そのものに直接関係しています。もし、この「好き」をやめていたら、今の自分はなかったかもしれません。誰でも好きなものがあると思います。寝食忘れるほど熱中するものがあれば、それを認めてあげてください。他人から見たら「変なヤツ」「変な行動」かもしれませんが、実はそこの部分が世に大きく役に立ったことを偉人たちが証明してくれています。

多くの人が属する組織では人はそれぞれ「違う」ものであることを理解し、個性を尊重することが、良い組織をつくるだと私は思います。「いい組織を作るにはとどうしたらいいですか?」若い先生からよく質問をうけます。私は「一人ひとりの興味を知ること、そしてすべてを認めること」、これが今からの時代には必要な事と考えています。個性を伸ばすとはそういうことではないでしょうか。

 

※新型コロナ感染症のワクチン接種のため、当院の歯科医師が不在になる日が出てきますが、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。