つるちゃんからの手紙 9月号 (平成30年9月号)
「開業論」という本を書きました。今年のゴールデンウィー クに書き溜めた原稿をまとめ上げて、ようやく本になりました。なんで私が作家でもないのに本を書こうと思ったか、お話しします。
私が歯科医師免許をとったのは2 7歳。それからあっというまに20年が経ちました。もう何年かすると50歳を迎えます。
20年も歯科医師を一生懸命やっていれば、その間に身に着けた知識と技術は、それなりのものになってきたのかもしれません。手前みそではありますが、やっている歯科治療も他にはないレベルのものも一つや二つではなくなってきましたし、 見学者がたびたび訪れるわけですから、まずまずのものができているのかもしれません。 学術発表や講演の機会だって増えました。
しかし、私は人に認められることや、なにかしらの地位がほしいわけではありません。恥ずかしい話ですが、 若い時にはそんな時期もありました。「この年齢になって」とかいうと私より人生の先輩からは「先生はまだまだ若いじゃない」と喝を入れられそうですが、歯科医師人生としては折り返し地点を回って、ゴールが遠くに見えてきたというのが正直なところです。
最近は、新しい技術を紹介するセミナーや勉強会に参加しても、いつの間にか年長者になっており、自分より若い講師の先生に気を使われることも多いので、なるべく笑顔で楽しんで受講することにしています。実習なんかが始まると、真っ先に私はルーペをつけます。しかも、つけているのは私だけだったりするのです。その時にはさすがに少しばかり「老い」を感じますが、だからと言って勉強や学びにおいては、「もう歳だから」などと言って、やめるつもりは全くありません。
しかし、最近になって、今はなんというか、自分がこの年齢にふさわしい、他の何かを求めていく姿勢があってもよいのではないかと思うようになったのです。それがいったい何であるのかはわかりませんでした。
ここ数年、なにか心の中のもやもやするもの、満たされないものを考え尽くしました。
その結果、私は若い次の世 代の歯科医師を心の底から育ててみたいという気持ちが彷彿してきたのです。
もしかしたら、それが私にとって生涯で成し遂げたいことの一つではないか、とも思えてきました。
では、ただ単に普通に歯科医師を育てたいのかというと、そうではなく、「立派な歯科医師」と呼べるような人を育てたいと思うようになったのです。
「立派な歯科医師」とは、 優れた診断能力、治療ができることだけではなく、人の心をよく理解でき、自分のチーム を愛する心を持ち、経営においても真剣に考えることができる歯科医師を言います。
私も数知れず、一流と呼ばれる歯科医師の先生にたくさん出会ってきました。一流である人は必ずと言っていいほど、礼儀正しく、謙虚であり、どんな人にでも敬意を払います。 それに加えて、何とも言えないオーラが出ています。
そんな人たちは必ずと言っていいほど、どんな形であれ、後進を育てています。それは、いままで身に着けてきた技術や経験を自分ひとりで持っておくより、次の世代の歯科医師に提供し、学んでもらうことによっ て地域や社会のお役に立てて欲しいと願っているからなのです。
そんな気持ちを書き綴った本が、「開業論」です。若い歯科医師向けに書いたものなので、ところどころ専門用語が出てきますが、待合室に置いてありますので、待ち時間が長くなってしまった時にでも、 冷やかし半分で、読んでいただけたら嬉しく思います。