私が大学5年生のころ補綴(ほてつ)学の講義で一コマだけインプラントの講義がありました。これまでは、歯を失ったらブリッジか入れ歯になるのが当たり前だった時代にインプラントを目にし、心の底から感動しました。これからの時代はこれだ、この治療方法を身につけて多くの人が豊かな毎日を過ごせるように力を注ごう。そう決心しました。
インプラント治療は骨に穴をあけてそこにチタン合金を埋め込むわけですから、まず口腔外科に入局しました。当時はインプラントの専門科は大学にも存在しませんでした。口腔外科ならきっと将来役に立つと思い入局しました。そこは、とにかく診療範囲が広かったのですが、智歯(親知らず)の抜歯と口腔領域に出現した腫瘍の治療が多く、研修医のころは一例もインプラントに触れることができませんでした。その後もインプラントを撤去することはあってもなかなかインプラントを埋入することができず悶々としていましたが、この時の口腔外科で学んだ基本的な手術手技がその後のインプラント治療に大きく反映されていくことになるのです。
大学病院を退職し、佐賀県の漁村の歯科医院の分院長になった時は1例だけ経験しましたが思った以上に大変難しく、そう簡単なものではありませんでした。もっと勉強しないといけないと思いセミナーに参加しました。1回受講したからといってもすぐに自信を持ってできるものではなく、その後はコースや勉強会に積極的に出席するようになるのです。それから開業してからもずっと勉強し続けています。数年前からはインストラクターとして、実習コースを担当し、発表も行うようになりました。たくさんの歯科医師の前で自分の症例を発表するのは勇気がいりますし、入念に準備しておかないと質問に答えられず恥をかきます。
症例を経験していくと、患者さんからのインプラント治療の紹介が少しずつ増え、ちょうど2000症例ほど経験したころをきっかけに同業の歯科医師の先生からのご依頼も増えてきました。しかし、私には肝心の肩書がない。そもそも私は最初から肩書とかあまり興味はありませんでした。手術の力とファイナル(最終補綴)の完成度がすべてと思っていたからです。しかし、5年前に長男が歯学部に入学したことを機に「口腔インプラント学会専修医」の認定が必要と考えるようになりました。技術を継承するためにもう一度ゼロから学びなおしたいと思ったからです。
専修医になるにはたくさんの試練があるのですが、ハードルが高いのが「学会指定研修施設の認定講習会を受講していること」これは100時間におよぶ講習会を受講し受講証明をうけないとなりません。診療を休まないといけませんし、授講料もかかります。もう一つが、「ケースプレゼンテーション試験に合格していること」これは条件をクリアした症例を提出した後の口頭試問です。6月に受付があり翌年の1月に受験です。試験時間はプレゼン含め30分。試験官は3人います。年一回しかなく、東京で行われます。170人ほどが受験します。
周りはみんな若くて肌の艶が私とは違います。どちらかというと試験官とほぼ同じくらいの年齢でした。ちょっとばかり場違いでした。試験は合格。それでも専修医にはなれません。次は論文を書いて学会誌に掲載されないといけません。2年以上の経過症例を規定数提出し審査を受けます。それからたくさんの書類を準備して、申請を行い専修医の認定証が手に届くまで、足掛け7年がかかりました。本当のところは2,3年で取得できるだろうと思っていましたが、甘かったです。遠い道のりでしたが、自分の臨床を見つめなおす機会になり大変勉強になりました。
これで少しは自信がつきましたが、いかんせん固執は厳禁です。肩書きは人を安心させる手段ですから、いつの間にかそれに胡坐をかいて肝心の実力を失い、腑抜けになるのは避けたいと思います。いつまでも信頼される歯科医でいるためには、偉いとか偉くないとかより、心の広さや技術力、やり切る力において決まるのです。今年は自分が経験した症例を学術大会などで発表することで、より前進したいと考えています。10月は福岡、11月は名古屋で学会発表です。今からワクワクしています。






