つるちゃんからの手紙 令和6年11月号
第54回日本口腔インプラント学会学術大会に行ってきました。国立京都国際会館で3日間、開催されました。大きな規模の学術大会です。全国から多くの歯科インプラント医療を行っている歯科医師が集います。たくさんの会場があり、シンポジウムや一般口演、ポスター発表、テーブルクリニック、業者展示まで、年一度の祭典となっています。
この学会にはじめて出席したのが、1998年のことでした。大学を卒業して次の年、福岡で開催されました。当時はまだ、学会に出席してもさっぱりわからず、情けなさを感じながら帰ってきたことを覚えています。将来インプラント治療をするには口腔外科手術の経験が必要と思い、当時勤務していた大学病院で口腔外科手術に没頭しました。
2003年に開業して、自分が得意と言える義歯(入れ歯)に力を入れていたのですが、その義歯(入れ歯)も、概ね噛めるようになるものの、どうしても慣れる事ができない患者さんが一定数おられました。こんな時にはインプラント治療が一番だとわかっていても、知識や技術が乏しいためにその人にお奨めすることができませんでした。自分の力不足を嘆きました。
そんな時に、福岡で若手歯科医師を対象に4日間のインプラント治療のコースがあるという告知を目にしました。日本を代表する歯科メーカーが主催です。これは間違いがないと思い歯科衛生士も一緒に、そのセミナーに参加しました。これで自分もインプラント治療ができるようになると意気揚々でした。
しかし、そう簡単ではありませんでした。インプラントをする部位は抜歯によって大きく骨が欠損するため、歯槽骨を人工的に造る方法や、足りない歯茎や結合組織を移植するという方法でした。術式も難解且つ複雑、減張切開という特殊な切開を歯茎に加えるために、術後はとても腫れるのです。さらに造骨した部位が既存骨のようになるまでの治癒に時間を要し、そこからインプラントを埋入するので、噛めるまでに相当の期間と費用がかかります。そうなると抜歯をして噛めるようになるまで、早くて6か月、長いと1年以上かかってしまうのです。
治療をする歯科医師と治療をうける患者にとっても根気と我慢を持ち合わせていないと治療は成功しません。若いうち(40歳未満)であれば、このような手術にも耐えうるかもしれません。しかし、インプラント治療を行う人の多くは55歳から75歳の年齢層が圧倒的に多いのです。年齢が高くなると、全身疾患も増えていきます。高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、心疾患、脳血管障害などに罹患していて、歯科治療に影響を与える薬を服用している場合もあります。
基本的には高齢者に対し大きな外科侵襲を加えるべきではないと私は考えていました。ですから、このコースを受講しても、ずっとインプラント治療は躊躇していました。しかし、いつか必ず、学問を究め技術を開花させるのだと、諦めませんでした。紆余曲折の経験の末、林揚春先生が提唱する「患者目線のやさしいインプラント治療」4Sコンセプトに行きつきました。抜歯と同時にインプラントを埋入し、短期間でかめるようになる、この方法により、2か月半後には仮歯が入り噛めるようになるのです。しかも、治癒期間は痛みや腫れがほとんどない状態で過ごすことができるのです。この治療方法は従来の方法を行っている歯科医師からは敬遠されたこともあります。それでも、私は誰が何と言おうとインプラント手術は低侵襲且つ、予知性とクオリティが高い治療を志してきました。
自分の信念を貫こうとすれば、逆風は必ず吹きます。すぐに「できるわけがない」、「聞いたことがない」、「論証はあるのか」、と言われてしまうものです。この方法が患者にとって最善だと思ったら、周りと同じことをやっていてもダメなのです。そうでもないと新しい「技術」はこの世に生み出せないのです。誰かがやっているから大丈夫だろうと、遅れて取り組むのではなく、最良の技術はすぐに決断し、技術を磨き、実行することが最も大事なことだと私は思っています。