つるちゃんからの手紙 3月号(平成31年3月号)
 

「研修医への手紙」

 

最近、若い歯科医師の先生へよく話をする機会があり、先日もセミナーで話した内容がとてもよかったそうなので、その時の話を書き記します。


 大工さんや、床屋さん、お寿司屋さんにしろ、昔の職人の世界では、「教えてもらえると思うな。見て技術を盗め」と言われたそうです。

 私は、まさしく歯科医師の世界もそうで、基本的には、この考えは正しいと思っています。

 誤解してほしくないけれど、決して新人研修や教育が必要でないと言っているのではありません。そもそも、教えてもらうことだけで、これらの複雑な仕事を習熟することは不可能だと私は言いたいのです。それほど、自分で「見て盗む」ことでしか、仕事の重要な部分は覚えられないのです。

 ある程度の教えることはマニュアルという共通点でカバーできますが、それ以外のところの力加減や、手の繊細なタッチにおいては文章や動画で表現ができない部分も多くあります。

 経験が浅い先生が、わざわざ「見て盗む」必要がある技術とは、実は、それが当たり前にできている指導医にもなぜそれができているのか、よくわかっていないものもたくさんあります。感覚的なものや「なんとなく」の部分が大きい。

 稀に、見事にポイントだけをわかりやすく教えることが出来る人もいますが、これでも全てを教えきっているわけではありません。

 やはり、仕事のスキルの肝心となる核の部分は、必ずといって「見て盗む」必要があり、それがないと、プロとしての仕事はいつになっても完成しないのです。

 だから決して受け身で教えてもらうのではなく、自ら発見し、自らを鍛錬する気持ちがないと「なにかいまひとつ」「つめが甘い」というレベルの仕事しかできない人になってしまうのです。だから、これからは是非、こう考えて欲しいと思います。

 学生時代は、模範解答を暗記することが勉強と言っていました。それはそれで大事なことですが、プロフェッショナルとして、模範解答はさっさと丸暗記できていて当然で、それをはるかに超えることを求められるものです。

 その部分においては、残念ながら教育や研修だけでは教えることはできないことをよく覚えていてほしいのです。ですから「なぜあの人にできて自分にはできないか」という認識を持ち、その上で、貪欲に観察し、指導医や周囲に問いかけるしか方法はないです。

 実は、誰もがその連続をやったから、今があるのです。

 自分評価なんかより、「私に何が欠けているのか」について鋭い意見を言ってもらったほうが、早いスピードで成長できます。正直、傷をおったところに、塩を塗るわけだから、精神的にも堪えます。だから、若いうちにがむしゃらに「見て盗む」ことをやってほしいのです。芯のある仕事を実践したいのであれば、時に自分を追い込んでみることが最も大事。AIなんかどうでもよくなるくらいのスキルを身につけよう。