つるちゃんからの手紙 12月号 (平成30年12月号)
 

私が採用面接のときに大事にしていることがいくつかあります。

それは第一印象です。まず、入室するときの「失礼いたします」と言ってから頭を下げる人は高感度がグンと上がります。「失礼します」より「失礼いたします」のほうが、たった一文字加えるだけで、より丁寧に聞こえます。反対に「失礼します」と、頭を下げるタイミングが一緒の人もいます。すると、私にではなく床に向かって「失礼します」と言っているように見えます。挨拶は言葉と動作を別にすることで美しく見えるのです。また、「自己紹介をお願いします」というありきたりの質問ですが、「山田といいます」と名前だけ言う人もいれば、「学校法人○○学園 〇〇〇専門学校の歯科衛生士科から参りました山田花子です」と美しくはきはきと言える人は、きらりと光ります。前者は明らかに面接への準備不足。学校の正式名称を略さず、それを聞きやすくすらすら言うことができるようになるまでにはかなりの練習がいるのです。そして、その後に「本日はどうぞよろしくお願いします」ここまで言えたら、もう私は飛び上がってしまいたいほどうれしくなるのです。「それくらい常識、簡単でしょう」と思うかもしれませんが、人生に関わる面接試験でここまできちんとできる人は意外に少ないのです。これは形式にすぎないものかもしれませんが、こういった形式を軽視せず、ちゃんと重んじる人は間違いなく、他人への配慮ができるので、医療従事者にふさわしい人と言えるのです。

「先生さあ、面接試験は形式ではなくその人の中身が勝負でしょ」、と私にアドバイスしてくれた人もいますが、本当にそうなのかなあ、と私は考えます。きちんと挨拶ができる人こそ、しっかりとした人格が備わっている人であると私は思っているので、そこは最重要ポイントで間違いはありません。敬意をもった挨拶をされて、不愉快になる人なんて実際にはいないわけですから。むしろ好感が持てるはずです。

 もうひとつ、「当院のホームページをご覧になりましたか」という質問。

「はい、見ました」とうれしそうにおっしゃる方が圧倒的に多いのですが、実はこれ、少しばかり私にとってはマイナスの印象を受けるのです。目上の人間が「ご覧になりましたか?」と丁寧な言葉で訊いているのに、「見ました」と発言すること自体が、恥ずかしいことに気が付いてほしいのです。

 正しくは「ハイ、拝見いたしました。」と応えることができた人は、私は心の中でガッツポーズを出しています。「拝見」という言葉は謹んで相手のことを敬っていることを意味しているからです。たとえば、若い勤務医が、自分よりもはるかに年長の患者様に「お口の中を、ちょっと見せて下さいね」というのと、「お口の中を拝見させていただきます」と言うのでは、どちらが「頼りになる歯科医師」と感じるでしょうか。若いうちから「拝見」「拝聴」「拝読」などという日本語を使いこなせる人は明らかに一目置かれます。

 そして、面接が終わったとき、誰もが面接をしてくれた人にお礼をいうかというとそうでもありません。面接が終わったとたん「どうも」とつぶやいてさっさと帰る人だっていました。せっかく採用に十分値する優れた要素がたくさんあったとしても、その時は残念な気持ちになってしまうのです。面接の最後は「本日はまことにありがとうございました」としっかり言えることなのです。ああ、この人はいつも「ありがとうございます」という言葉を言い慣れているのだろうな、きっと感謝を忘れない人なのだなあ、と私は思うのです。私の採用するときの判断基準は合っているのか、間違っているのかは、わかりませんが、一緒に働く人こそ、周囲との「和」を大切にした思いやりのある人であって欲しいと願っています。

今年一番良かったことは4人の職員が当院に就職してくれたことです。さらに、来年4月には4人の新入社員の内定が決まっています。この中の3人は県外の人です。宮城県、熊本県、佐賀県から私の医院を選んでくれたのです。世の中にはこの歯科医院よりも大きく、有名な医療機関はたくさんあります。この愛野町にある私たちの医院を魅力に感じてもらえたということは、とてもうれしいことなのです。ありがたい気持ちでいっぱいです。

最後に、一言申し上げます。今年は自然災害が多い一年でした。私にとっても日々いろいろなことがありました。しかし、皆様のおかげで大過なく年末を迎えることができそうです。本年も大変お世話になりました。本当にありがとうございます。新しい歳が、皆様にとって良い一年でありますよう心より祈念いたしております。 

 

                                                                                                                                   理事長 鶴田博文