つるちゃんからの手紙12月号(令和4年12月号)
 

「幸せ経営フォーラム」という勉強会がある。これは全国の経営者が集い、ゲストの話を聴いてそれについてディスカッションを行うというもの。4回コース。現在はコロナ禍のためWEB開催となっている。

北九州市で美容室を経営する久保華図八さんの話。新入社員が入ってきてはじめての給料日。その月には「初任給手当」というものがある。これは初給料で親になにかプレゼントをして、親に感謝の気持ちを伝えるために特別に支給されるもの。

ある新入社員は母親とお姉さんに、父親がもらって喜ぶものは何かないかと聞いてみた。すると「新しい安全靴が欲しいって言っていたよ」と聞いた。「安全靴」って何? それは自分が行く靴屋には置いてなかった。父親がいつも仕事で履いているものの形とサイズをチェックした。そしてどこに売ってあるのかネットで調べた。その店に行って安全靴を手に取って驚いた。重いのである。こんなに重い靴があるなんて知らなかった。店員さんに、なんでこんなに重いのか聞いてみた。仕事中に、足になにか重い物が落ちてきても足を守れるようにしているために鉄板が中に入っていることを知った。その時初めて父親が危険な仕事をしていることを知った。こんなに重い靴を毎日履いて自分のために汗を流して働いてくれていたのかと思うと心の奥底から感謝の気持ちが自然に湧いてきた。思春期のころから父親になにかと反抗してきた。嫌気がさして「くそジジイ!」などと言って悪態をついたこともあったという。父親にプレゼントなんてしたことないし、恥ずかしい気持ちもあったけれど、勇気を出して「いままで、育ててくれてありがとう」と言ってそれを手渡した。父親が喜んでくれたのは言うまでもない。

こういった体験が、「人をやさしくする」と久保さんは言う。久保さんの経営する美容室バグジーは何店舗もあるが、どのお店でも、新人からベテランまでみんながお客様のために一生懸命、助け合いながら働いている。大事なのは「助け合う心」を持つということだ。これは伸びている会社に共通する組織風土だ。私たちの仕事もそうである。歯科治療は一人の力では限界がある。受付職員が患者様の予約を調整してくれる。歯科衛生士が虫歯や歯周病に罹患しないようにブラッシングや口腔衛生状態を管理してくれる。歯科医師は自分の専門分野に秀でた治療を行う。歯科技工士がその患者様のかみ合わせあったものを作ってくれる。お一人おひとりの、大事な口の健康を守るために多くのプロフェッショナルがそれぞれの立場を尊重しながら、助け合い感謝をして成り立っている。私は技術さえあれば、それでよいと勘違いしていた時期があった。しかし、今はそうは思わない。素晴らしい治療をすることも大事だけれど、素晴らしいチームを創りいい文化を育むこと。それが最も大事。そうすることで、永く地域に愛される歯科医院になるのではないかと思っている。「人を育てる」と言うと技術を教えることに目が行きがちだ。教育とは部下を上司の命令に従わせることではない。人を思いやる心を持つ、優しい気持ちを持つ。すると自然に周りの人と助け合うようになる。どうすれば、患者様や仲間にとって良くなるかを考えることができるようになる。本当の教育とは技術を教えるだけではなく、人としての心を育むこと、私はそう思っている。