つるちゃんからの手紙 8月号(令和元年8月号)
とうとう来るべき日が来ました。
開業したときに購入した3つの診療台が、寿命に達したのです。
ある日突然、まえぶれもなく、診療台の下に油圧を制御する黄色いオイルが床に流れ出ているのをみて、私はそれが血液とかぶって見えました。
これまで頑張って動いてくれていたことを私は直感的に察しました。
物には命がある……。
開業が2003年ですから、もう16年も使っていたのです。
歯科診療台のことを「ユニット」と言います。このユニットもピンキリなのです。私は開業する時に、このユニットを選んだ時のことを思い出しました。
ユニットは、ヘッドレスト(枕の部分)が電動で可動したほうが圧倒的に治療しやすいので、そういったモデルを購入したいと思いました。しかし、当時この機能を持つユニットは、ハイエンドモデルの高価なものしかありませんでした。少しでも費用を安く抑えるために、機能性が高いモデルを必死になって探したことを、覚えています。
調べれば調べるほど、安くて良いものなどこの世には存在せず、オプションと設置費を入ると、ちょっとした高級車が買えるほどの金額に膨れ上がりました。覚悟を決め、まさに清水の舞台から飛び降りる心境で購入したことを今も覚えています。ですから、開業してから、今までずっと大事に使ってきました。
仕事に精根を傾けるすべての物には命があって、それを拝むように大事に扱うことが大切です。そうすると、この上もないほどの良い治療が出来る、たとえようもない居心地の良さが提供できると私は思うのです。
『万人幸福の栞』丸山敏雄著(新生書房)にはこう書かれていました。
『物は生きている。大切に使えば、その持ち主のために喜んで働き、粗末に扱えば、すねて、持ち主に反抗するだけでなく、時には腹を立てて食ってかかる』
まさしくそれは真理であると思います。
歯科材料ディーラーの担当者に訊くと「大体ユニットは10年くらいで交換、良く持って13年くらい。先生のところはたくさんの患者さんがおいでになるので、これで16年以上もつなんて、奇跡ですよ」と。
スタッフも私と同じようにユニットを大事に扱ってくれました。
毎日の清掃、点検だけではなくユニットに不具合が少しでもあれば、すぐにディーラーの担当者にサービスを依頼し、切削器具の調子が悪くなると、すぐに修理に出し、最高のパフォーマンスを発揮できるように常に注意を払ってくれていたのです。そのユニットも今は応急処置をしてもらいなんとか作動していますが、いつ動かなくなるかわからないほどの状態であるとのことです。
急に止まると、患者さんに迷惑がかかる。
私は、とうとう買い替えを決意しました。
何度か、メーカーに足を運び、新しいユニットはどれにしようか、そしてどういう仕様にするのか、色は?デザインは?それを何度も吟味し、とうとう発注しました。ユニットは精密医療機器です。だからすべてオーダーメイド。
新しいユニットの設置はどんなに急いでも9月下旬になる予定です。
3台のユニットには開業して16年もの思いがたくさん詰まっています。
私自身にとっていい時もあったし、つらいこともありました。しかし、このユニットが、たくさんの人の幸せに貢献してくれました。
そう考えると、心の底から込み上げてくるものがあるのです。
次に導入するユニットはモデルチェンジをした上位機種を選択しました。これからも、新しいユニットと共に心を込めて、良質な歯科医療を実現したいと思います。