つるちゃんからの手紙 11月号 (平成30年11月号)
 

今年は二つの学会に入会しました。「日本歯科医学教育学会」、「日本総合歯科学会」です。当院は協力型臨床研修施設に厚生労働省から指定を受けています。これは、どこの歯科医院でも指定されるものではありません。施設基準や人員の配置においても、定められています。また、指導医講習会を受講し、認めらないといけません。その指導医は私と願能先生です。

 歯科医学教育というのは大変難しく、一筋縄ではいきません。私が研修医であったころは、まさに「歯医者=職人」という図式が頭にあり、いわゆる丁稚のような存在でした。もちろん、誰よりも早く出勤し、一日中、指導医について回り、小間使いもやりながら、こっそりと指導医の技術を盗みながら成長していったことを思い出します。大学の医局に入ったらすぐにポケベルを持たされ、いつでもどこにいてもしょっちゅう呼び出されていました。経験が少ないからといって、「懇切丁寧に指導」などということは決してなく、厳しい指導が当たり前でした。もちろん叱られたこともたくさんあります。これはとても恥ずかしいことでしたから、今度こそ絶対に叱られないようにと暇さえあれば、医学書に書いてある知識を頭に叩き込み、休みの日があれば模型や抜去歯を削って死ぬ気でトレーニングをしていました。

ですから猛烈に忙しく、休む時間もありませんでした。しかし、それを辛いと思ったことは一度もありませんでした。いつも叱っていただいたその指導医には、「私のため」を思っての厳しさがあることに、むしろありがたみを感じていました。私もその経験が未来につながることを信じていました。だから、ひとつ仕事を覚えるたびに、喜びを感じるようになりました。仕事を覚えると叱られなくなる。患者様に喜んでもらえる。そして、研修が終わるころには指導医からほめられることもいくつかありました。あんなに厳しかった指導医からほめられると、それはもう涙が自然と頬を伝うほどのうれしさだったことを思い出します。

しかし、それは私の時代での話。今の時代は教育に対してもとてもシビアになってきています。きっと私の駆け出し時代のことをそのまま、今の研修医に行うと、非難を浴びかねません。私と臨床研修医とは20年も歳が離れているのです。当然、技術を習得するための方法も全く変わってきているのです。ですから、私も今の時代にふさわしい医学教育を身につけないといけないと思い、「日本歯科医学教育学会」に入会したというわけなのです。

臨床研修医の先生は、大学では専門的な歯科医学教育を受けてきます。ですから、難しい歯科治療においての知識はあります。しかし、最も世の中で多い、いわゆる「町医者」での治療方針や、教育はほとんど受けていません。町医者のことを私たちはGP(General Practitioner)と呼びます。呼び名を変えたら「総合歯科医」、「一般臨床歯科医」とも言います。大学病院では学べないのがこの分野になるのです。

 先日、鹿児島で「日本総合歯科学会」が開催されましたので、はじめて出席してきました。

 複数の臨床研修医を抱えている歯科医院というのは大規模であることが多く、北海道から沖縄まで全国の先生方と意見交換をする機会に恵まれました。歯科医師として技術者、経営者として成功し、多くの活躍をされている方ばかりです。その中には本を書かれた先生や、大学歯学部の教授・准教授の先生方とも話をする機会がありました。私はチャンスとばかりに、「先生はなぜ、今のように成功されたのですか、その秘訣を教えてもらえませんか?」という質問をたくさんの先生に投げかけてみました。

成功する秘訣、それは何だとおもいますか?私は、「運がよかった」とか、「自分にしかできないことを伸ばした」、「チャンスをものにしたから」などという答えが返ってくるだろうと思っていました。しかし、それは違いました。

彼らが一番大切にしていたことに共通点がありました。それは「誰よりも勤勉に働くこと」でした。たしかに勤勉に働くことによって一緒に働くスタッフや地域や社会から信用を得ます。その結果「運」を引き寄せるのではないでしょうか。

大学病院から示される臨床研修医の行動規範は「知識」「技能」「態度」の3つです。私はそこに「誰よりも勤勉に」という言葉を学びに来た臨床研修医に投げかけてみたいと思います。将来、人として、技術的にも優れた歯科医師が一人でも輩出できるような臨床研修施設になれるよう、襟を正して日々診療を行いたいと思います。