つるちゃんからの手紙 令和8年7月号

2026.07.09


私は自分がされて嫌なことは患者さんに極力行わないことにしています。しかしやっていることそのものが医療行為なので、どんな治療も快適に気持ちよくできるわけではありません。炎症がひどいときはどれだけ麻酔を追加しても痛みを伴う場合もありますし、口を大きく開けたまま何十分も我慢してもらうことも時にあります。

しかし、私が行うインプラント手術だけは違います。一般には顎骨の中に金属を埋め込む手術を行うので、考えただけでも痛そうだし、つらい場面が想像できます。

しかし、私のインプラント手術は「快適でした、気が付いたら終わっていました」と患者様に感想の言葉をいただきます。今日はその理由をお話しいたします。

骨に埋め込むインプラント体のことを私たちはフィクスチャー(Fixture)と呼んでいるのですが、このフィクスチャーが顎骨の中のどの位置にあるかがもっとも重要なのです。フィクスチャーが骨にくっつくことをオッセオインテグレーション(Osseointegration)というのですが、私が使用しているものは最短でも6週間の待時期間が必要です。この期間を超えてしまうと、骨とフィクスチャーが強固に結合してしまうというわけです。

このフィクスチャーのポジションがすべてなので手術中は無心になって手を動かしています。手術中は考えている時間はありません。そこに歯を入れて嚙み合わせを作り、それを長い間機能させないといけないので、まず術前の診断に力を注ぎます。手術は何度も頭の中でシミュレーションを行い、何があってもいいように準備をしています。だから手術こそ最も重要な場面です。ほんの僅か埋入窩の位置がずれていてもいけない。このフィクスチャーの形態、サイズは妥当か。直径は?長さは?埋入深度は適切か。ドリリング時の発熱はおさえられているか。(少しの発熱でも簡単に生体組織は壊死します)骨質に適合したドリル径と種類を使用しているか。いろいろなことを策考します。局所麻酔が奏功し、歯肉を切開剥離、抜歯、掻把、埋入窩形成とステップを忠実に守っていきます。この時が最も手先やステップに意識を集中しないといけません。その時もし患者さんがガクッと口を閉じたらどうなるか、もし、背中や腰が痛くなって勝手に姿勢を変えたら、手術はそこで思うようにはいかなくなります。しかも一度骨にフィクスチャーが結合してしまったら、もう後で修正は絶対に不可能であるし、フィクスチャーをまた摘出することは極めて困難だからだからです。

そこで、私が考えたのが「静脈内鎮静法を応用したインプラント手術」なのです。

歯科麻酔学という学問分野があるのですが、歯科治療を行う時に静脈に点滴をしてそこに鎮静薬をいれることで患者さんの意識が遠くなり、うたた寝をしているような状態の間に手術を行うというものです。全身麻酔は呼吸の管理が必要だし、覚醒後も安静が必要なのですが、この方法は注射だけですみますし、鎮静を瞬時に覚ます拮抗薬もあります。だからインプラント手術に最も適しているといえます。欠点は、歯科麻酔の専門の知識と経験を得た歯科医師の存在が必要であるということです。そのような歯科医師は大変少ないのが実情です。私には20年以上一緒に仕事をしてきた歯科麻酔学会認定医(白石先生)がいます。長い間一緒に仕事をしていると、私の術式においては白石先生の頭の中に完璧に入っていますので、どこでどのように患者さんのバイタルコントロールをしたら良いかをすべて把握しています。私も歯科医になってずっとインプラント手術の研鑽を続けてきましたが、その技術と経験を活かすことができたのは間違いなく静脈内鎮静法の下で手術を行うことができたからだと思っています。手術の時、患者様が痛みを感じる、我慢をしていると、当然気を遣うわけですから、指先になんて集中できません。はじめたころは少なかった症例数も今は累計で2500症例を超え、ひと月に8日ほどインプラント手術を行っています。その98%が静脈内鎮静法で行っています。なにより患者さんはとても楽に手術を受ける事ができるわけです。「夢を見ていた」、「眠っていた」、「何か気持ちよかった」とおっしゃいます。この方法については普通に行っている歯科医院はまだまだ少ないのではないでしょうか。もしやっていても複数本も同時に手術する場合などに限定していることがあります。私の医院はたとえ1本のインプラント埋入手術でも、静脈内鎮静法を行っています。それはベストを尽くしたいからです。これはどんな分野においても見えないところに力を注ぐことが最も大事だと思います。高価な機械式腕時計がどうして今の時代にも支持されているのかというは見えないところを大事にしているからです。見えないところにこそ最善の材質を入れ自分の命より永く持たせる。隠れたところにも彫刻を施し磨きこんでいるからなのです。これを「こだわり」というのかもしれません。たとえ、この治療が自分しかできないことであっても決して気を抜かず、真摯に患者様一人ひとりに向き合うことを続けていきたいと思います。

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