歯科材料ディーラーの担当者から、「院長、すみません、とうとう歯科局所麻酔カートリッジの納品ができなくなりました。」と告げられました。28年歯医者をやっていますが、こんなことははじめてです。しかし、新型コロナ渦の時期から供給がヤバイらしいと歯科業界でも耳にしてきましたが、いよいよ供給がストップしたのは始めてです。同じ歯科医師のスタディグループのSNSで「うちもとうとうストップしたけど、みんなどう?」って聞いたら、九州地方の歯科医師のほとんどが私と同じ状況でした。もうすぐ底を尽きそうという歯科医院もありました。なぜこうなったのか、原因は定かではありません。物価高、材料費や人件費の高騰で薬品メーカーも困っているという声もあります。薬価が安く採算が取れないという理由で局所麻酔薬のメーカーの数が少なくなり一社のメーカーのラインがトラブルによって止まったためにこの混乱が起きたという説があります。歯科用はガラス製のカートリッジに入れられているため、製造工程が特殊で他のメーカーが簡単に作ることができないといいます。まだ、このことは大きく報道されていないため、社会的に知られていませんが、この状況が続くと、全国民に知れ渡ることになると思います。そこで以下のような文書を書き、来院される患者様にお知らせすることにしました。
緊急のお願い 患者様各位
現在、全国的に歯科用局所麻酔薬の入荷ができない状況です。(入荷見通しもたっておりません)当分の間、当院のストック分は緊急性がある場合にのみ局所麻酔薬を使用する方針としました。つきましては、緊急性が無いと歯科医師が判断した場合、治療内容の変更をお願いする場合があります。ご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力の程、よろしくお願い申しあげます。
この文書を書き、医院に掲示するまでいろいろと考えました。「どこかに供給ルートがあるはず」と貪欲に探す、海外に行けばまだ手に入るはず、という考えも脳裏によぎりました。でもね、私だけではない。日本中の歯科医師が困っているわけで、一番優先度が高いところが局所麻酔薬を使用しないといけないと思うわけですよ。例えば大学病院。手術や、骨折や歯牙破折などの外傷、顎炎や急性化膿性歯髄炎などの炎症などは絶対に必要。二次救急、三次救急など命にかかわるところにないといけない。だから、供給ができない原因を追究しても、誰が悪いとか言っても仕方がないし、来ないものは来ないのであるから、今できることを精一杯やり切ることに決めました。とにかく局所麻酔を使用せずに疼痛を和らげる方法を考えないといけない。抗菌薬や鎮痛剤などの内服薬、そしてレーザー照射による消炎。幸い表面麻酔薬はまだ供給が止まっていない。こういった時にこそいままで培ってきた経験の中から知恵を使うことが求められるのです。戦時下を生き抜いた祖母がいつも言っていました。「ものは大事にするんだよ。欲しいと思ったときには遅いから」と。まさしく今、その心境です。ここ数日間、麻酔薬が底をついたことを考えたら夜も寝付けません。その時がきたら、私も患者同様に苦痛を伴うことでしょう。治療ができない苦しみ、辛さ、そして悲しさを耐え忍ぶしかないのです。歯科用局所麻酔薬は歯科医師にとって最も大事なもの。歯科医療の崩壊が起こる前に、一日も早く供給が再開されることを願ってやみません。 文責 鶴田博文






