つるちゃんからの手紙 令和7年3月号
 

T君は神戸出身で学生時代はラグビー部だった。出席番号が私のひとつ前だったから実習パートナーだった。歯学部は3年生になると解剖実習から始まり基礎系科目の動物実験、4年5年生になると模型を用いての歯冠修復や、歯肉の縫合、矯正治療、さらには義歯を作る。試験があれば、共に資料をつくって一緒に進級のためにがんばる。T君が私の6年間一緒に過ごした大事な実習パートナーだった。実習が夜遅く終わったら「さい川」というお店に焼き鳥を食べに行ったものだ。試験の最終日などは午前中で大学が終わるので、その足でスキーにも行った。

 

そのT君、年が明けたあたりから入退院を繰り返しているという。どうも体調が思わしくないと同級生から連絡があった。会いに行こうとしたが、もう意識が戻らないかもしれないと聴き、愕然とした。ハウステンボスに家族で行った時は元気だったのに。令和6年8月、午前の診療が終わってお昼休み、部屋に飾っていた絵が突然床に落下した。不吉な予感がした。数時間後、T君の訃報を耳にした。
翌日飛行機に乗って通夜に行った。たくさんの人が弔問に来ていた。T君の奥さんがT君の大事にしていたアルバムを持ってきてくれていた。私が現像した白黒写真が沢山目に入ってきた。写真を大事にとっていてくれたのかと思うと嬉しかった。楽しかった思い出が次々とよみがえる。同級生と夜遅くまで語り合った。

人はいつ死ぬか、わからない。だから、動けるうちにやりたいことをやろう。聞けばT君は岩手県北部の三陸に住む友人を訪ね、ウニやホヤを食べに行っていたらしい。それは相当美味しいらしい。「俺たちも会えるうちに会っておこう」、来年の1周忌が終わったくらいに三陸の友人のところに行ってT君の追悼のために会おうという話になった。

T君はここ数年、なぜかやたら大好きな海外旅行に行っていた。アフリカに行って野生の動物を撮ったものをSNSにあげていた。私も元気で体力があるうちにやっておきたい事を考える年齢になってきた。オートバイで行ってみたいところがある。石川県にある千里浜なぎさドライブウェイ。全長8キロの天然の砂浜が道になっているところ。その砂浜を走れるのかと疑問に思ったが、秘密は砂粒の一つひとつが大きいので、水分を含み硬く引き締まる為に大型バスでも走れる。雑誌でなんども波打ち際を自動車やオートバイが走るのを見た。

 

問題はいつ行くか。ちょうど5月に千里浜をゴールとするオートバイのイベントがある。太平洋側の海岸で夜明けと共にスタートし太陽と一緒に走る。そして日の入りまでに千里浜にゴールする。立ち寄る箇所は道の駅を中心に最低5か所以上。その日の0時に発表される。そして、休憩時間もとらないと失格となる。全国からたくさんのオートバイ乗りが集まる。すでにエントリーした。その前後の3日間、5月に休みをもらう。一日に500キロ以上走るので、うまくゴールできるかわからないけれど、今やりたいことをやっておいたほうが、悔いがない人生を送れるのではないだろうか。大雨が降るかもしれないし、渋滞だってあるだろう。たとえ、日の入りに間に合わなかったとしても、ゴールの千里浜を目指したい。運が悪いとリタイヤするが、それでもいいと思っている。また、3日間も診療を休むわけだが、それを許してくれる家族や勤務医の先生やスタッフには感謝しかない。ありがとう。