バリアフリーへの挑戦


1、私が「予防すること」に目覚めた理由
私は歯科医になって十数年が経ちました。
そしてこの間、学会に参加したり、有名な先生の講演を聴きにいったり、研修会やセミナーに数多く参加してきました。今でもよく行っています。

このため以前から、歯科治療にたいしては情熱とこだわりを持っていました。
しかし、どんなに高度な技術や情熱をもって治療にあたっても、一向に虫歯や歯周病はなくなりませんでした。

ここで気がついたのです。

歯は削れば削るほど、悪くなることを。
治療すればするほど、新たな虫歯ができ、また治療が必要になってくることを・・・・


2、厳しい現実


実は、歯のライフサイクルはとても短いのです。

これはどんなことかというと、悪くなった虫歯の部分を人工の物、たとえばレジンという歯科用のプラスチックや、金属で補うと、ステップや、デコボコができます。どんなに磨きをかけたとしても、です。たとえ、人間の目には見えなくても、小さい細菌にとっては大きなデコボコです。そこに細菌がたまりやすくなったり、接着剤が劣化し、材料と歯のすき間から入り込んだりして、また虫歯を再発してしまうのです。しかし、治療していない自分の天然歯であればそのようなデコボコはないので、細菌が停滞しにくいのです。

患者様は「治療すれば治る」と思っていらっしゃいますが、それは厳密にいうと違います。
はじめは小さな虫歯だったかもしれません。そこを治療するのですが、また、その材質と接触している、歯の一部が虫歯になります。
虫歯が再発するのに、最近の学術研究では、レジン充填で5.2年。メタルインレー(銀の詰め物)で5.4年。FCK(銀冠)で7.1年といわれています。あくまで平均値ですが、この数値、私は正直驚きました。

自分が一生懸命、治療したところが、こんなに早く悪くなってしまうなんて・・・・ショックを隠せませんでした。

治療したところに虫歯ができ、そして再び治療を繰り返す。そのたびに、健全な歯はどんどん削られ、より面積の大きな、人工の材料に変わっていきます。

その次に待ち受けているのは・・・「歯の神経を取らないといけない状態」になることです。

抜髄という歯の神経を取り去る治療を行うことにより、歯の痛みは治まりますが、その歯の寿命が、神経がある歯(生活歯)に比較して短くなってしまうのです。

神経がなくなるというのは、木で言えば「枯れ木」と同じような状態になってしまうのです。
そのようになっても、「食べる」「しゃべる」「見た目」などの基本的な機能を回復させることはできますが、耐久性が格段に、悪くなってしまうのです。

また、何か強い衝撃があたったり、硬いものを噛んだ拍子に歯が割れてしまう、折れてしまうとしまうこともあるのです。

ですから、自分の歯で一生食べたいという人は、むし歯になってからでは遅いのです。

つまり、治療した時点でもうその歯は老化を始めたことになってしまうのです。

このような話を初めて知った、という方も多いのではないでしょうか。


3、8020運動ってご存知ですか?


「80歳に20本の歯を残しましょう」という運動です。

私はよく患者様に「いくつまで自分の歯で食べたいですか?」と質問することがあります。

ほとんどの方が「先生、馬鹿なこと聞かないでください。一生自分の歯で食べたいに決まっているじゃありませんか。」とお答えになります。

そうなのです。年齢と共に歯は少なくなっていくのが一般的なのかもしれませんが、やっぱり自分の歯が一番なのです。

それを実現するのが「予防歯科」という考え方なのです

しかし、わが国の現状は・・・80歳でなんと6.8本です。
永久歯は20歳のときに28本ありますので、60年経過すると28-6本=22本も失うのです。
単純計算すると、3年で1本ずつ失っていくことになるのです。

ちなみに、アメリカであれば85歳のときに平均15.8本、スウェーデンであれば75歳で平均19.5本の平均残存歯数となっています。

この事実、あなたはどう思いますか?
このような、欧米諸国はどのようにして、歯を残しているのでしょうか?
どうしたらむし歯、歯周病からあなたの歯を、守ることができるのでしょうか。



4、大切なあなたの歯を守る方法

その答えが1〜3ヶ月に1回、歯科医院で「定期健診」という、メンテナンスを受けることなのです。

欧米では、治療ではなく、この「定期健診」に力を入れたことによって、国民の平均残存歯数が飛躍的に向上したのです。

スウェーデンは国民の90%以上の人が「定期健診」をうけているにもかかわらず、現在わが国で、この「定期健診」を受けている方はわずか2%という統計もあります。



5、「定期健診」とは
  
なにを指すのでしょうか。

「定期健診」とは、定期的に歯科医院を訪れた方に、歯科医師や歯科衛生士などの専門職が、現在の状況に対してアドヴァイスを行い、そして歯石取りや歯面清掃(クリーニング)フッ素塗布などを行うことを言います。

「定期健診」を行うと、歯を、長期的に守ることができる、ということが、昨今の研究でわかってきたのです。

日本でも、ある調査によると、「定期健診」をしっかり受けた方は80歳で15.7本の歯が残った。受けなかった方とでは約9本もの差がついているのです。

これは驚くべき数値ではないのでしょうか。

歯を健康に保ちたいという方。虫歯になりたくない、歯周病になりたくない、という方。
そんな方は、3ヶ月に一度の「定期管理」を強くお勧めいたします。




6、なぜ3ヶ月に一度なのか?

「3ヶ月に一回も歯医者に行かなきゃいけないの? 私はそんなに暇じゃないの」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

まじめなあなたは、一日2〜3回毎食後、しっかり 歯磨きをしています。
それでもあなたは歯周病になっているかもしれません。
あなたの磨き方が間違っているのでしょうか。多分それだけではないと私は思うのです。

歯周病の原因は、歯磨きでは決して取り除くことのできない細菌から形成された硬い膜(バイオフィルム)や歯石だからなのです。

実は、歯磨きだけでは、歯周病の予防は不可能だったのです。
歯周病からあなたの 歯を守るためには定期的な歯のクリーニングが必要だったのです。

それでは、その歯周病の原因となるバイオフィルム、歯石について説明します。

歯石とは歯垢(プラーク)が固まって(石灰化)できたものであり、この歯石は表面がザラザラしているために、細菌がつきやすくなります。細菌がついて、歯と歯肉の間にある歯周ポケットに入り込み、歯肉にダメージを与え、最終的には歯を支える骨を溶かしてしまう原因となります。
ですから、歯石はきちんと取り除く必要があるのです。

また、バイオフィルムとは台所やお風呂の排水口のヌメヌメのようなものであると思ってください。
細菌同士が固まって硬い保護膜を作りあげてしまうのです。それによって歯ブラシでは取ることが困難になります。
バイオフィルムも歯石と同様、放置しておくと、虫歯と歯周病の原因となります。
ですから、これを機械的に歯科医院で取り除くことが重要になるのです。

また、このバイオフィルムは除去することができても、また3ヶ月程度で形成されるというデータが出ています。
ですから、3ヶ月に1度の定期管理が必要になるのです。



7、予防歯科による定期管理における目標


あるニュース番組で、北欧のフィンランドの歯科医療の特集が組まれていました。フィンランドの子供たちは学校の授業中にも、当然のごとく歯科医院に行くシーンがありました。しかも「定期健診」にです。本当に、驚きました。歯に対する意識の高さがまるで日本とは違うなと思ったのですが、それだけではありません。

そのフィンランドの歯科医院がまた、静かで落ち着いていて、清潔感のレベルが高く、また、そこで働くスタッフや歯科医師すべてが、人の温かさにあふれているのです。これなら自分の子供に授業中でも「定期健診」をうけさせたいと思いました。

私たち歯科医療従事者は、患者様から「忙しくて歯医者にいけなったんだよね」という言葉をよく耳にします。

そこで、私は思いました。
忙しくても行きたいと思えるような、なんでも気になることが話せる、頼りになる歯科医院をつくることが、今後の課題なのではないのでしょうか。

そういったことの積み重ねで、日本にも8020が達成できる日が来るのではないでしょうか。

歯を守るために、行うべきことはなにか。
行き着いた答えが、ずばり「予防歯科を中心とした定期管理型歯科医院」だったのです。


8、私の信条

歯科医師法 
第一条 歯科医師は、歯科医療及び保健指導を掌ることによって、
   公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活
を確保するものとする。

この条文だけは何度読んでも、素晴らしいと思うのです。
つまり歯科医師の最も大切な役割は「国民の健康な生活を確保すること」なのです。

これが「来院した患者」ではなく、「国民」というところが重要です。

医療の本質はここにあると私は思うのです。ですから、ホームページでこのような思いを発信しました。

つまり、本来、私達のもっとも大切な仕事は「歯を削ったり、抜いたり」ではなく歯を守る方法を、広く一般の方々に伝え、そして「みなさんの健康な生活を確保する」それが大きな使命だと思うのです。

あなたが歯科医院を訪れるとき、それは銀歯を詰めたり、歯石をとりに来ているだけではないと思うのです。
私は、来院される方々が、未来における豊かな人生のために歯科医院を訪れていることを忘れたくないのです。

言い換えれば、歯が健康でいられることは「未来の生活が豊かになること」そのものではないでしょうか。
私たちはそのお手伝いをさせていただくことができましたら本望です。

長い文章になってしまい、読みづらいところもあったかもしれません。
読んでいただきましてありがとうございました



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