つるちゃんからの手紙7月号(令和5年7月号)
先日、講師としてある講演会にお招きいただいた。若い歯科医師の先生に勇気が出るような話をしてほしいということだった。自分はまだまだ若いと思っていたのだが、よく考えたら今年で54歳になる。歯医者になる年齢は、ストレートでいくと24歳。私は3年受験浪人したので27年の臨床経験となる。気が付けば立派な年月が経っているので、自分が歯科医師として辿ってきた道のりを話した。
20年前。若かった私はインプラント治療というものに限界を感じていた。どんな勉強会や、学会に参加しても、治療方法に疑問が残った。外科的侵襲が大きい、治療期間が長い、治療手技が複雑。予知性は悪い。これを家族に行えるかというと答えは「ノー」だった。もうインプラント治療はあきらめよう。大学5年の時に、インプラント治療を志し、アメリカまで出かけたのに。その時の私は大きな挫折感を味わっていた。自分が本当にやりたいことがわかっているのに、なにかと理由を付けて(言い訳をして)心を閉ざした。まるで負け犬だった。そんな時、林揚春先生(東京都新宿区ご開業)の講演を拝聴した。それが大きな転機となった。「抜歯即時埋入インプラント」という斬新な技術だった。いままでは抜歯をして、そこが治ったらインプラントを埋入するという方法だった。治療期間は少なくとも6か月から1年をかけるのが普通だった。しかし、この方法だと2か月後には噛めるようになる。(条件がいいとその日に仮歯が入る)その治療方法は低侵襲で安全、予知性が高く今までにない革新的なものだった。自分が目指す歯科治療のすべてがそこに凝縮されていた。美しい症例の数々に私は息をのんだ。林先生はこうおっしゃった。「私たち歯科医師が進むべき道は不健康な高齢者の治療ではなく、元気で健康な高齢者を増やすための歯科治療を考えることです。咬合、咀嚼の安定は明らかに加齢を防止する。元気で若々しい人をもっと増やしましょう。噛めなくなった人はできるだけ早期に口腔機能を回復させましょう。そのためにインプラント治療があるのです。インプラント治療だからと言って多大な外科侵襲を加える、長期の治療期間は高齢者の栄養状態や体力は低下するばかりです。だから私たちは低侵襲で短期間にインプラント治療を終えないといけない。高齢になっても口から食べられる間は品位と尊厳をもって生きることができるということを、決して忘れてはいけないのです。」私は心が震えた。なにがなんでもこの技術を身に付けようと決心した。自分はいつか林先生のようになろうと。
あまりにも感動したので、同僚や上司に林先生の話をしたら、こういわれた。「そんなことはできないよ、絶対無理」、「騙されてるに違いない」「まだ確立されている技術ではない」「きっと失敗するよ」「あれは林先生だからできるのだから、あなたができるわけがない」悔しかった。でもあきらめきれなかった。だから林先生の抜歯即時埋入のコースに参加した。これまで学んだこと、トレーニングした方法とは全く違うやり方であった。知れば知るほど圧倒された。本気だった。恰好なんかつけず、正面から体当たりした。コースは長期に渡り、厳しかったが、そこで、全国から参加した仲間とであうことができた。彼らも私と全く同じ気持ちだった。一生懸命勉強して、症例検討会で発表したが、詰めが甘くこっぴどく叱られた。落ち込んでいると仲間が私に「羨ましい」という。実力がある人しかあの先生は叱らないから、と言う。私は何年も何年もそのコースを受け続けた。数えきれないくらい上京した。そのコースは去っていく人もいるが、残った人たちは本物の実力をつけていった。「これまでの方法でインプラントをしていたら、痛い、腫れる、治療が終わってもインプラント周囲炎を起こして大変だった。他の部位が悪くなって、またインプラントをしましょうと患者さんに話をしたら、もう勘弁してくれと断られた。でもこの抜歯即時埋入インプラントだったら、侵襲も少ないので、患者さんは痛みもなく、よく噛めるようになって喜んでくれた」みんなそう口をそろえた。その時の仲間が腕を磨き、今は研究会を立ち上げ、後進を育成している。私も微力だが、そのお手伝いをしている。
若い先生たちに、言ったこと。「あなたもいつか生涯をかけてもいいから手にしたい医療技術に出会うでしょう。本物に出会ったら、もういても立ってもいられなくなりますから。だから、それはすぐにわかります。その時は覚悟を決めて、自分の利益になるのか、ならないか、などとは一切考えず、人の為、地域のため、社会のために自分の腕をみがいて欲しい。道は険しいほどその価値はありますから。自分を信じて未来の日本のために頑張ってください」これからの若い歯科医師が希望をもってくれたら本望である。
2023年5月、メガジェンジャパンCEOより、日本で10本の指に入るインプラントジストとしてCertificate を贈呈されました。