痛みが出た歯を抜くと、患者さんはとても喜んでいました。「痛くなかった」って言って。若い頃は大学病院の口腔外科で修行したので、痛くないように歯を抜く技術を身につけていました。しばらくして抜歯したところが治って、そこに義歯(入れ歯)を装着するわけですね。患者さん「噛めるようになった」って喜ぶ人もいたけれど、そうじゃない人のほうが多かったような気がします。「入れ歯入れたらまたなんでも噛めるようになるんじゃないの?」と思っている人もいるかもしれませんが、そうはいかないのが現実なのです。「入れ歯いれてどうもない」「快適に使えているよ」と言う人のほうが少なかったというのが実感です。そもそも抜歯になったということは理由があって、歯周病だとか手遅れの虫歯だとかが想像できると思うのでしょうが‥‥でもね、実はちがう。多いのは「二次カリエス」。この「二次カリエス」ってのが曲者。これが良くない。虫歯になったからといって安易に歯の治療を繰り返していくのが「二次カリエス」。虫歯を治してもらって安心していても、数年経つと修復材料そのものが劣化し(※)、細菌が歯質へ侵入し見えない部分で虫歯になってしまうのです。すると治療したはずの歯に痛みが出るようになる。そうしたら「抜髄(ばつずい)」といって歯を栄養する血管とその神経を取り去る。すると痛みがとれる。患者さんは治ったと思う。でもそれをしてしまうと、15年くらいするとその歯が折れたり、修復した歯(補綴物っていう)が取れてもうそこには接着できないようになってしまうのです。えっ?聞いたことがないって。本当です。歯医者ならだれでも知っています。最近はその割合がかなり増えてきたったってこの前の日本小児歯科学会の公開シンポジウムで発表されていました。直近の研究では、抜歯する歯の5本に一本くらいの割合がこれ。そうならないためには虫歯にならないことが一番大事。治療の繰り返しが抜歯に至るわけですからね。虫歯にならないためには、ライフステージごとに自分の口の中の特徴にあったホームケアに適したものを歯科医院で選んでもらうのが一番いい。年齢とともに口の中の状態も変わるから、一生この歯ブラシとこの歯磨き剤を使っていりゃいいってものではない。ドラッグストアの大量の歯ブラシや歯磨剤の中から自分に合ったものを選ぶなんて至難の業。だから、歯科医院に勤務する歯科衛生士さんに今の自分にあう口腔ケアグッズを教えてもらうことが重要なのです。これに加えて定期予防処置を受けて歯肉を含めて歯をプロにクリーニングしてもらうこと。これにつきます。それでも悪くなっていく人もいるけれど、定期予防処置受けないよりはゼンゼンいい。「でもそれができなかったのよね」という人。「小さいころから歯が悪かったけど、わかってはいたのだけど」、という人も現実は多いのです。そんな人は定期予防処置を積極的にやってくれる歯科医院とはなかなか巡り合う機会がなかったのではないか、と私は思うわけなのです。それもたまたま。10年くらい前までは歯医者選びに「ちょっとググって」ができなかったわけですからね。話は戻りますが、「治療したらそれで終わり」、「またなにかあったら行けばいい」。「私歯医者は苦手」、「忙しくて歯医者にいけない」。それでは歯は守れない。これダメ絶対。なぜ定期予防処置が必要か知らないままに日々を過ごして、歯を失っていく人をたくさんみてきましたからね。治療技術はもちろん大事だけれど、どうやってあなたの歯や口腔機能を守っていくか、その方法を教えていくのが一番大事。決して、来院してくれる人に歯科オタクになってほしいわけではなくて、本当は歯のことで悩まずに、一生口の中が健康であることで豊かで幸福であってほしい。食べる、話す、笑顔、表情、ぜんぶ歯が大事。歯は命と言っても過言じゃない。心のどこかに「ああ、ここに、私に寄り添ってくれる歯科医院があって本当によかったなあ」そう思っていただけることが私のなによりの喜びなのです。
(※)材料の劣化による二次カリエスを防止するにはCEREC治療(1day treatment)が最も優れています。この方法は高度な歯科医療技術が必要なため、当院では専門技術を習熟した歯科医師が担当しております。






